「―――!」

必死に手を伸ばす。今にも崩れそうなビルの中。もう崩壊は始まっている。いつ真上の天井が落ちても不思議じゃない。しかし手を伸ばす。必至に名前を呼ぶ。名前を呼ぶ。
しかし、真上よりも先に。手を伸ばす先に瓦礫が落ちた。名前を呼ぶ。叫ぶ。そして気付く。もう、生きていない。


絶望が、きた。











「…ちゃん、…ぎ…」
「んん、」
「いい加減起きろコラアアアアアア!!!」
「いったああああああああ!?なに!?え、なに!?」

頭に衝撃が走り飛び起きる。目の前には背丈と同じ大きさのハンマーを持った神楽。どっから持ってきたそんなもん。

「何時だと思ってるアルか!赤ちゃんでも起きて飯食ってオシメ代えてって泣いてるヨ!」
「はあー?いいじゃねえかよ休みの日くらい。仕事で疲れた世間のサラリーマンの日曜日なんてこんなもんだって」
「仕事で疲れた?誰がアルか?私の目の前には一週間仕事がなくてぐうたらしてたダメ男しか見えないネ」
「やめて涙でる!」

ちくしょー俺だって好きでダメ男やってんじゃねえんだよ。依頼が来ればきちんとそれ相応の働きはするって。珍獣ペット探しだってゴミ拾いだって人助けだって。
ん?人助け?そういや夢見たな…なんか人助け的な…しかも嫌な方の夢だった。目覚めが悪いのはハンマーのせいだがハンマーだけのせいでもないかもしれない。

「どうしたの銀ちゃん。金を差し出す気になったか?」
「お前に差し出すモンなんて一つもねえよ」





「銀ちゃん!」
「―――!」

彼女が俺の名前を呼び、俺が彼女の名前を呼ぶ。壁にはりつけられた彼女の元へ走る。刀を持って。どうして俺が刀を持っているんだとか、そんなこと考える余裕はなかった。早くしないと。―――が。
ごつ、っと何かにぶつかる。立ち止まり見ると小さい石だった。足から血がじわじわと滲みだす。足が急激に重くなる。しまった。このままじゃ。
間に合わない。

「銀ちゃん」
「―――!」

俺は手を伸ばす。刀を放り棄て、必至に手を伸ばす。彼女も手を伸ばす。その時、地面に向かって放り出した刀が彼女の心臓めがけて飛んだ。血がじわじわそこから出てきて、最後は彼女の周りを全て赤で覆った。声にならない悲鳴をあげる。すると血が滲んでいた足からまた凄まじい痛みが襲った。


「起きない銀ちゃんの足にこの叔父像さんを置いて自分のカサをあげると幸せになるネ」
「なに叔父像さんって!おじぞうさん!?ただのおっさんの像じゃんかこれ!!!足しびれてんのはこいつのせいかァァァアアアア!」
「銀さんも神楽ちゃんも五月蝿いですよ!」
「「メガネは黙れ」」
「なにこの扱い!いつものことだけど!!!」





「もうちょっと…」

あと十センチ。もう少しで手が届く。けどお互い伸ばした手は既に精一杯だ。せめて、もうちょっと。もうちょっと待ってくれ。一回目も、二回目もダメだった。嫌だ。もうコイツを失いたくない。これ以上絶望を味わいたくない。恋人を失う悲しみは刺されるってぐらい痛い。もうやめてくれ。せめて。手をつながせて。

「銀、ちゃん」
「だいじょぶだって。…名前」

笑うと名前は一瞬びっくりした顔をして、ふっと微笑み返した。
ピーッという無機質な音が鳴り、爆弾がタイムリミットを告げた。






「お前さ、夢占いって信じる?」
「はい?」「見た夢がどんなかってんで、今の自分の深層心理が分かるっての」
「ああ、聞いたことありますね。詳しくはないですけど誕生日にお通ちゃんの夢見れて、よっぽど好きなんだなあって幸せな気分になったことはありますね」
「……」
「ちょっと銀さん?話振っといてなんでそんな目で見るんですか」
「彼女いないからって誕生日に好きなアイドルの夢見て仮の幸せに浸るお前に引いてるアル」
「……」
「やめろおおお!!!」
「私の夢も占うアル!今日みたのはゴリラがニラになった夢ヨ」
「え、ゴリラが?」
「いーんじゃねーか?ニラで。ゴリラみたいにウホウホやってるだけならニラみたいに静かに存在してるだけの方がいいって」
「ニラなら姉御も喜ぶアル」
「まあ、ニラなら…ってなにそのどうでもいい夢!絶対占いとか関係ないよそんなの!!」

ギャーギャー話す二人を放って考える。なんなんだろうな、あれ。同じ夢だけどそうじゃない。同じ人物は出てくるが状況は違うし、知ってるヤツでもねえ。しかも恋人って。どういう夢だよ。そういうのに随分離れてるから?深層心理って願望ってことか?そりゃあんな美人さんが恋人なら仕事も頑張りますって感じだけど。
けどその人が毎回死ぬ。助けようとしてるけど助けられてない。あの瞬間は本当に辛くて夢でも嫌だと思う。本当にあれだけは嫌だ。でも、段々距離が縮まってるんだよなあ。あと十センチくらいだったし次は手が届くんじゃねえか?まあただの夢だけど。
…てかアレ?銀さんもしかして病んでる?こんな夢見るとか病んでるの?

「つまり睨まれたことにより心の奥深くで傷ついていて睨むがニラに変換されてゴリラがニラになったということアル。生き物がいつか土になるというさだめをゴリラがニラになることによって表してるネ」
「うっせええええまだやってんの!?ニラはもういいんだよニラニラうっせえ!」
「銀さんがうっさいですよ」


ぴんぽーん

「「「!?」」」
「こいつは…呼び鈴か?」
「呼び鈴なんてついてたんですか?今まで呼び鈴鳴らして訪ねてきた人なんていませんよ」
「礼儀の正しいお嬢様の依頼人ネ!!!がっぽり金が手に入るヨ!!」
「神楽ちゃんしーっ!ようやく来たお客さんかもしれないのにそんなこと聞いたら帰っちゃうでしょ!」
「世間知らずのお嬢様か。それならちょっとばかし料金高めでふっかけても」
「アンタ汚い大人だな!!はいはーい、いま開けます」

ガラガラ

「「「!?」」」

三人でお出迎えするとそこには本当にお嬢さまが立っていた。
一目で豪華と分かる着物。しかし飾りすぎてない。にこにこ笑っていて可愛らしさもある。神楽が耳打ちした。

「やっぱりお嬢様アル。これは期待できそうネ」
「だからまだお金の話はしちゃだめ!銀さんもですよ!…銀さん?」
「……」

彼女を見たまま固まっている銀時。新八がつんつんと腕をつついてみるが動く気配がない。それを見て神楽が半目になった。

「おねーちゃんに惚れたネ」
「ええ!?銀さんが!?」
「他人が恋に落ちる瞬間初めて見たヨ」
「どっかのクローバーみたいに言わないで」

どういうことだ。そんなはずない。夢占いとかそんなんじゃない。今まで話したことも見たこともない。なのに。
彼女はぺこりと頭を下げ、にこりと微笑んだ。いつかの夢のように。

「こんにちは。名前と申します。えっと、万事屋さんにお願いしたいことがあるんですけど」


###
アニメ化おめでとうパロディ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -