寝返りするときに意識なんてない。寝ているんだから。
けど、その時は確実に違和感があった。心地の良い弾力のベッドの感触ではなくもっと固いもの。そして「いたっ」という声。夢心地だったが僕は目を覚ました。

「…は?」

そして、覚醒する。
目の前には白いワンピースを着た少女が頭をおさえて横になっていた。

「ちょ、ええええええ!!!」
「な、なに!泥棒!?」
「君ですよきみ!どなたですか!部屋間違えてません!?」

僕の声に驚いたのかベッドからがばりと起き上がる少女。ここは任務先の宿だからもしかしたら部屋を間違えたのかもしれない。寝ぼけてたとか。泥棒にしてはなってない。見たところ彼女の荷物もない。というか隣で一緒に寝る自体ありえないか。
そんないっぺんに質問されても答えられないよ、とのんびり返答する少女に警戒をとく。悪そうには見えない。むしろ純白のワンピースを纏って微笑んでいる彼女はまるで天使を思い出させる。

「質問があるならひとつずつ、いい?」
「…じゃ、じゃあ。貴方の名前は」
「んー、神様」
「…は?」

アレンの本日二度目の「は?」が出た。
にっこり笑って答える少女。いや天使みたいとは思ったけど。自分で言うか普通。しかも神様って。知らないだろうけど僕神の使徒なんですけど。あ、もしかして痛い子?

「アレン?どうしたの?」
「…なぜ僕の名前を」
「神様はなんでも知ってるのよ」
「ああホテルの従業員に聞いたんですね理解しました」
「あら、信じてないのね」
「君、本気で言ってるんですか?」
「もちろん。貴方がどうして黒の教団に帰らずここで過ごしているかも」
「……」

これには流石に驚く。黒の教団。エクソシストの任務。ここのホテルの従業員でさえ一部の人しかしらない。
AKUMAがいるとの情報がありアレンとファインダー一人でこの街にやってきた。AKUMAは大して強くはなかったがファインダーを盾に取られ、自由に動けず負傷してしまった。せめて包帯を巻いても血が滲まない程度にならなければ帰り道で色々と面倒だと宿泊していたのだが。
こんな少女相手に誰かが口を滑らせた?話してるところを盗み聞きしてたとか?疑われていると気付いたのか少女は片方のほっぺをぷく、と膨らませた。

「そういう行動神様っぽくないです」
「アレンは神様を見たことがあるの?」
「いいえ」
「なら、それはアレンの中の神様だわ。期待しすぎて実際は全然違うってことよくあるわ」
「……」
「そういえばさっき部屋間違えてないかって聞いてたわね。間違えてないわ。私はアレンの怪我が治しにここまで来たの」
「…どういうことです」
「やだわ、ぶすっとしちゃって」

私の可愛い使徒が怪我しちゃったんだから、治してあげに来たのよ。神様は気まぐれだからたまーにしか干渉しないのよ。ラッキーだったわねアレンくん。
胡散臭さと半分半分。アレンはじっと神様を睨んだ。案外すぐボロを出すんじゃないかと発破をかける。

「神様って女性だったんですね」
「アレンはエセ紳士だけど女の人には優しいから。そこはちゃんとしてるからこの姿で来たのよ」

間髪をいれず答えた彼女に閉口する。エセ紳士。最近よく言われる。主にオレンジ兎に。

「そろそろ時間だからいくわ」
「…え?」

突然窓を開け片足をかける彼女。当たり前の動作だというように全く動じていない。ここは四階だ。もしかして、ほんと?

「じゃあね。楽しい一夜をありがと。アレン」
「変な言い方しないでください!!」

ウィンクをきめてから消えた彼女。慌てて窓を覗けばそこには人影もなにもなかった。
代わりに、アレンの腕が血が滲まなくなるどころか傷の跡形もなくなっていた。




「おかえり、アレン」
「怪我大丈夫か?」
「お帰りなさーい」
「ただいま」

ホームに帰ってきた。「ただいま」と返すのが気恥ずかしいようなもっと言いたいような。とっても温かい人たちである。

「アレンくん、おかえり!左腕はどうだい?」
「ただいまコムイさん、もうすっかり良くなりました」
「本当?映像見たときはキズ深そうだし血ドクドクしてたし心配したよー」
「あはは、実は」

神様に治してもらったんです。復活した左手で頭をかきながら。信じてもらえないだろうが言っておきたかった。

「あらまぁ、アレンったら信じちゃって。可愛いー」
「……」
「あれ?なにその顔。一気に化けたわよ。私よ、アレンの大好きな神様よ。ほれほれ」

人差し指を自分のほっぺに向けにーっとした。

「あ、そうそう。彼女は名前・名字くん、アレンくんがホテルでゆっくりしてる間に長期任務から帰ってきてね。彼女回復も出来るからって帰ってきて早々アレンくんのところに行ってもらったんだ」
「……」
「一応ラビくんと同期かな。君の先輩だよ!リナリーの友達でもあってね〜リナリー(略」
「回復して名乗らずに去って行く。どう、格好良いでしょう?」
「神の使徒が神を語るな。もっと悪いわ!!」


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