「これ生徒会に届けてきて」
「え!」
「ん、どうした?」
「いえ、なんでもないです…」

先生に渡された書類の束を受け取る。部活動の予算案だとか校則改善の要望とか書かれた紙に罪はない。ただ彼のところに行くのが憂鬱で仕方ない。
だが先生に頼まれたなら断るわけにもいかないと引き受けた。そうだ、生徒会の人なら誰に渡しても良いんだから。職員室を出て、自分に言い聞かせるように心の中で唱える。

「……よし」

ドアの前で一度深呼吸。覚悟を決めてドアノブを掴むとまだドアノブを捻ってもないのに開いた。予想外のことに私はそのまま床にダイブ。手を緩めてしまったため書類がバラバラに落ちた音がした。

「……なにやってるの」

ダイブした状態のまま顔だけ上げれば不審そうな表情を浮かべたフレン・シーフォ生徒会長と目が合った。どうやらほぼ同じタイミングでドアを開けようとしてたらしい。私は慌てて体を起こした。

「なんでもないです!」

慌てて書類を掻き集める。その様子をじっと見ていたシーフォ会長は自分が出て行こうとしてたくせに「代わりに見回り行ってきて」と他にいた生徒会の人たちを部屋から出した。なぜだ。そのまま行けば良かったのに!

「で、僕になにか用?」
「い、いえ。会長にって訳じゃなくて生徒会の人にこれを届けてくれって」
「だから僕にでしょ」

笑ってるけど眼鏡の奥の目は笑っていない。彼はこの学校の生徒会長。成績優秀。スポーツ万能で先生からも生徒からも熱い支持を受けている。端整な顔立ちなためミーハーな女子生徒から大人気である。そんな誰でも憧れるようなこの人が私は苦手である。なぜか彼は私がいると意地悪ばかりしてくる気がする。その反応を見て楽しんでいるような。他の人には凄く良い笑顔を向けているのに。多分彼は私が嫌いなのだと思う。そしてそれを感じてしまったから出来れば近づきたくない、と思うのだ。
彼は座り込んでいる私と同じ高さでしゃがみ、手を出した。

「預かるよ」
「は、はい」

書類を差し出そうとするとシーフォ会長の手はそれを避け私の腕を掴んだ。訳が分からなく「あの…?」と戸惑う名前にフレンはぐっと近づく。逃げようにも逃げられず名前は慌てる。

「か、顔が近い!」
「僕がこうして嬉しがる子はいてもそんな風に怒られたこと初めてだよ」

本当におかしな子、と言うようににやりと笑う。チッチッ、と時計の秒針が動く音だけが響いた。鼻と鼻がぶつかりそうになる距離にまで近づかれ名前は精一杯顔を逸らした。

「…なにがしたいんですか」
「別に。こうしたらどういう反応するかなって」
「私で楽しまないでください」
「こんなので僕が楽しめると思ったなら心外だな」

肩をすくめた彼は手を放し私の手から書類を抜き取った。
こんなの、とは私のことを言われているのか反応のことを言われているのか。どちらにしても自分のことなはずだから少し落ち込む。苦手な人でも嫌われていると分かるのはやっぱり凹む。

「君さ、僕のこと怖いとか思ってるでしょ」
「……!?」
「あのね、見てたら分かるから」

書類を見ながら呆れた顔をするシーフォ会長。やばい、バレてた。「失礼しました!」と逃げるように出て行こうとすれば「駄目」と書類を持ってない方の手でドアをおさえられる。

「で、でも目的の書類は渡しましたし、もう用は済んだので…」
「何もしてないのに怖がられてるのはもっと心外なんだよね」
「え?」
「隣の芝は青いんだよ。だから妬んじゃう。僕のになってくれたら優しくしてあげるよ」
「あ、あの…?」

意味が分からなくて首を傾げると反応がお気に召したのか満足そうに笑った。
そっと頬に唇が触れる。

「…次は唇にしてあげる」

柔らかく微笑んだ彼の顔は何時もの意地悪そうな顔ではなかった。


ここはきっと美しい地獄/√A
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