「入江様、こちらです」
「分かった…」
「大丈夫ですか?息が上がってるようですが」
「今そんな弱音を吐いてられる状況でもないだろ。大丈夫、なんとか着いていくよ」
「…そうですね。とにかくここを抜けましょう」

なんとか人が通り抜けられる狭い通路を急ぎ足で進んでいく。あるファミリーに取引に出掛け、そのファミリーと敵対しているファミリーから襲撃があったらしい。運悪く巻き込まれたのだ。なんとか取引を終えた後だったため取引相手のボスから隠し通路から出るように言われ、今まさに逃げている途中だ。休み無しの移動は辛いが仕方が無い。
今敵に見つかったらそこで終わりだからだ。一緒にいるのは秘書の名前だけ。平和な取引するのに戦闘員を連れて行くのは相手が警戒すると思ったからだ。第一、力で脅す取引は成立しない。

「足音が聞こえますね」
「…いくらなんでも早すぎる」
「ハメられたかもしれません。……入江様、ここからお一人で行ってください」
「えっ、名前は」
「相手は近くまで来ているようです。足止めします」

驚いて彼女を見る。すると胸ポケットから指輪と匣を取り出した。指輪をはめると炎が灯る。

「…君が炎を出せるなんて、聞いてない」
「白蘭様の配慮です。入江様はご自身で戦わない身。もしもの時は私が入江様をお守りするようにと」

にこりともせず眈々と答える。確かに名前を秘書に選んだのは白蘭さんだった。まさかこういうこととは。
彼女は炎を匣に流し込み出てきた銃を取り出した。

「そろそろ行ってください。誰か庇いながら戦うのは本当は苦手なので」
「…分かった」

重たくなっている足を動かす。戦闘が出来ない僕にできることは早くここを抜けることだ。
しばらくして聞こえた銃声にも立ち止まらず進んだ。

「…なっ、お前は…!」
「悪いな、ミルフィオーレの若頭さん。こっちも商売なんでね」

通路を抜けるとそこには取引先のボス達が立っていた。手にはそれぞれ武器を持っている。やっぱりか。

「…わざわざ騙して、なにが狙いですか」
「あの秘書さん可愛い顔してなに仕込んでるか危険そうだったんでね。ちょいと離れてもらおうかと」
「……僕が狙いか」

ボスは笑うと銃をこちらに向けた。撃たれる。だがもう足が震えて動けない。やばい。

ダンッ

銃声が鳴ったのと同時にボスの持っていた銃が飛び跳ねた。

「なっ、」
「名前!」
「私がなにを仕込んでるか?なら、教えてあげます」

またポケットから出した匣が光る。状況は一変した。






「入江様、ご無事ですか」
「…おかげさまで」
「そこは労う方が上司として的確な反応だと思います」
「あ、ああ、ごめん」

注意され慌てて謝る。そして「そうだ」と自分のポケットからハンカチを出した。何だろうかとただじっと様子を見ている名前にそれを渡す。

「戦いが嫌だから他に連れて来なかったんだけど、逆に君一人に負担かけちゃったね」
「……」
「使って」

ぽかんとする名前。どうやら自分にだとは思わなかったらしい。少ししてかぁ、と彼女の顔が赤くなった。

「……こういうところは良い上司のようで中々良いです」
「それはどうも」

照れながら受け取る部下に笑った。



そうやってまた青痣を生む/√A

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