ソファーに横になりジャンプを読み耽っているとガラガラガラ、と玄関の扉が開く音がした。誰か来たなと視線をジャンプから部屋の襖へ視線を動かす。しかしすぐにジャンプに戻した。
ここへ来る奴なんざろくな奴がいねえ。ドMのストーカーやらサディスティック星の王子やら……って、ほんとまともな人いないんですけど!?銀さんに似たまともな人いないわけ!?
考えているうちに訪問者は銀時のいる部屋へと足を進めた。ジャンプを読んでいると分かって足で床を鳴らす。もうちょっと床に優しい地球に優しいアピールしてくださいよ。

「銀ちゃん、家の風呂が壊れた」
「……ふーん」
「借りたいんだけどいいかな」
「着替えもタライも持ってる時点で入ること前提で来てるよね?」
「この前ご飯奢るって言われて着いてったらお財布すっからかんだったのは誰?」
「うっ」
「結局二人分誰が払ったっけ?」
「ううっ」
「利子ついてるからね」
「え、あれ借金なの!…ていうか床あああああぁ!え、さっきので!?なんかひしゃげてるんですけど!」
「失敬失敬」

タライ片手にやって来たのは近所のボロアパートに住んでる女だった。この辺りの奴らみんなゴリラなのかと頭を抱えたくなるほどの怪力ぶり。たった今負傷した床へと駆け寄る。いくら直したってすぐ他壊されるんじゃ修理代で家計吹っ飛ぶよ!(既に食費で吹っ飛んでるけど)
凹んだ床をどうすることも出来ず哀れみを込めて優しく撫でた。

「あれ?神楽ちゃんは?」
「…そのへんにいない?」
「え、いないよ。あんた保護者だったらもっとしっかり見てなさいよ。放任主義も限度があるよ」
「どうせ酢こんぶでも買いに行ってるんだろ。ほっとけあんなの」
「ああ、酢こんぶ。出掛けてるだけならいいけど。じゃあ借りるからね」

勝手に入ってきて勝手に怒り勝手に風呂へ消えていく。銀さん家主なんですけどね。家庭に居場所がない父親みたいだよ…。誰も銀さんを讃えてくれない。ぐすん。

「ん?風呂?」

ぴーんと頭が冴え渡る。そう、例えば名探偵のコナンくんのように。なるほどと理解する。
風呂が壊れて下のバアさんのところじゃなくここに来た理由も、神楽の行方を聞いた理由も。男女が家でやることは一つだ。そういや最近そんなこともないな。こうなってはジャンプどころではない。
顔が緩むのを手でおさえながら風呂場へ向かう。うん、どうせ銀さんも入るんだし。だったら一緒に…

足を進めた時だった。先に向かったはずの名前がバタバタと足音を鳴らし戻ってきた。まだ服を着たままだ。

「銀ちゃんたいへん!」
「た、大変ってなにが…?確かにふたり入るには小さいかもしれねえけどくっつけばそれなりに」
「お風呂、ヒビ入っちゃった」
「………」
「…てへ!」

頭をこつんと叩き無邪気さをアピールしている。知ってるよ、わざとじゃないことを。力が有り余ってるだけということも。
うんうん、銀さんは分かってるよ。

「なにしてくれてんのオオオオォ!!?」
「仕方ないね。神楽ちゃん戻ってきたら三人で銭湯行こう」
「ちょ、修理!修理代きっちり払ってもらいますからねっ」
「何事もお金で解決しようとしちゃダメだよ、銀ちゃん」
「お前が言うな!」

さっきの高揚感はどこえやら。銀時は風呂場の惨状とさっきの床の凹みを思いしくしく泣いた。


レベルアップはまだまだかかりそうですね/魔女
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