最強。いや、最恐の赤ん坊に出会ってから早10年。あれだけ嫌がってたマフィアのボスに成り下がってしまった俺は今日も今日とて執務に追われている。デスクに積まれた書類を一枚一枚処理していく。しかし今はその手が止まっている。左手で頬杖をつき右手に持っている万年筆をカツカツと机に音を立てぶつけている。カツカツという音は次第に鳴る間隔が狭まる。イライラと直結しているそれは傍に控えている十年来の付き合いである獄寺くんが怯えるほどである。
しかし獄寺くんはどうでもいい。今肝心なのは目の前にいるこいつらだ。俺を前にして二人だけの世界に入ってやがる。カツカツカツ。早く気付け幻術使いども!!!

「今朝は名前が寝坊したから会議に間に合わなかったのです。僕の仕事の管理をしているはずの彼女が寝坊したのが原因。処罰は彼女一人にしてください」
「はい!?なんですかそれ!私は命令っていうから仕方なくそういう仕事してるだけで本当は戦場を有利に運ぶために幻術使って役に立ちたいんです私は!つーか一人で起きてくださいよ!いくつだあんた!」
「名前の使う幻術なんてたかがしれてます。戦場で働くより侍女の仕事をしている方が少しは役に立ちます」
「ほう…私は弟子ではなく侍女だと?」
「おや、レディ扱いされたいんですか。キスでもしましょうか?髪に?頬に?手のひら?唇?」
「言いながら髪にしないでください!!!」

カツン……ッ

叩かれ続けていた万年筆はいよいよ折れてしまう。その音に二人の世界から戻って来たのかびくりと震えてからゆっくり俺を見る。ああ、ようやく俺を見たね。にっこりと笑えば顔をひくつかせる骸と真っ青な顔をした名前。いま、お前たちが静かになるまで万年筆が一本無駄になりました。どこぞの校長みたいだ。

「同罪だよ。二人とも処罰は受けてもらう」
「は、はいい!」
「…仕方ないですね」
「まず名前。戦場で役に立ちたいんだろ?来週末、俺とリボーンが乗り込むアジトに着いて来てもらおうか」
「ボ、ボスとリボーンさんと…!?そんなメンツ恐ろし…じゃなかった。お二人なら私なんて必要ないんじゃ」
「俺に逆らうの?」
「滅相もないです!!!」

あはは、あはははと無理やり笑う名前。こいつは俺とリボーンが苦手だ。だから、俺もちょっと苦手だけど一緒に来てもらおう。咄嗟に思いついた嫌がらせだが中々良い。気分が良くなった。つぎは、と骸を見る。こいつはもう決まっていた。

「骸は名前に関わるの禁止ね。起こしてもらうのはもちろん、話すことも触ることも」
「……」
「ボ、ボス…いま初めて貴方に尊敬の念を抱きました」
「おせえよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい沢田綱吉。名前は幻術使いです。というか僕の弟子です。話もしなければ触れられもしないなんておかしいです」
「話はともかく別に触れられなくてもいいだろ」

俺の副業であるツッコミをいれ、冷ややかな目線を送る。弟子に惚れてることは誰もが知ってることだ。さっきとは打って変わって「そうだそうだー!」と名前は同意してくる。ああ、こいつも骸に困ってただけなのか。

「……じゃあ名前が俺たちの任務が終わって帰ってくるまででいいよ」
「えっ、ボス!期限なんていりませんよ!」
「ほう…いいでしょう。それくらいやってみせますよ。僕には可愛いクロームがいますから」
「というか早く幸せにしてあげたらどうですか?私からかうためにちょっかい出してないで」

駆け引きをするように骸は隣の名前を見る。が、彼女はその駆け引きには全く動じなかった。むしろすっぱり一刀両断した返答。固まってしまった骸を見ればさすがに可哀想になった。
よし、嫌がらせと同情を込めて任務から帰ってきたら骸と名前でバカンス行かせてやろっと。

「沢田綱吉、貴方という人は…菩薩か」
「鬼か!!!」

二人から真逆の視線を浴びた綱吉であった。

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