「このカップはどうしますか?」
「上から二番目に」
「これは?」
「その隣にでも置いて」

一人暮らしを始めた征十郎坊ちゃん。引越が決まり、荷物の収納を手伝っている。
高校生では寮で生活をしていたし使用人のいない暮らしを経験してないことはないが私からすれば不安だらけである。

「…やっぱりコーヒーメーカーを買いましょう坊ちゃん。湯沸かし器だけじゃ危険です」
「名字はなんの話をしてるの?僕は毎日コーヒーを飲むわけではないし邪魔になるから置かないと何度も言ってるじゃないか」
「飲みたくなったときにパパッとできないじゃないですか」
「楽したいときはインスタントでも買うよ」
「イ、インスタント…」

名字の顔が引き攣る。自分には馴染みのありすぎるものだが、征十郎には似合わない。今まで征十郎がコーヒーを飲みたいと一言言えば名字が懇切丁寧に淹れていたのだ。味が全く違う。繊細な彼はダメージを食らうに違いない。
たとえ「インスタントでも美味しい」と彼が言ったとしても、それはそれで今までの自分の頑張りが無駄になるようで複雑だ。

「炊飯器も…お米は無洗米を買ってくださいね。洗わないでいいので」
「分かってるよ。いつまで子ども扱い?」

柔らかく笑う征十郎坊ちゃんにむっとする。心配してるんですと言えばまた「分かってるよ」と返された。
本当に大丈夫かな。けど一人暮らしは全くの別だ。料理も洗濯も掃除も自分でやらなければいけない。洗濯と掃除は寮でしていたかもしれないが食事は出ていたらしいし。坊ちゃんに料理なんて出来るのだろうか。

「そのときは名前が作りにくればいいだろ」
「え?」
「むしろ一緒に住む?そうすれば俺の心配しなくてすむだろう」
「え、ちょ、なに言ってるんですか!」
「俺はいつまで子ども扱いかな…名字なら一緒に暮らしても嫌とは思わないよ。年だって離れてないし」
「あの…」

冷や汗を浮かべる。征十郎坊ちゃんは当たり前だというように「うん、そうしよう」と一人頷いた。まだ荷解きが終わってないというのにソファに腰を下ろし口を開いた。

「じゃあ、さっそくコーヒーを淹れてくれ」

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