「ねぇ、黒子くん。この前フランスで見つけたブーツ欲しい」
「……」
「デパ地下ってのに行ってみたい」
「……」
「あとね、ドライブスルー食べたいなあ」
「僕に言ってどうしようっていうんですか。あと、ドライブスルーは食べ物ではありません」
「え、違うの?美味しいって聞いたんだけど」
「マジバが美味しいんであってドライブスルーは購入方法というか。味はしません」
「…実は知ってるー!騙された?」
「……」

胴よりも長い脚を組み、元から長い睫毛にマスカラを塗りながら彼女は明るく言った。比例するように話相手だった黒子の元気はずんずんと萎んでいく。彼女がこんな人なのは昔から知っているけど。
幼馴染の名前はお金持ちでどこか一般常識から外れているところがある。お金持ちを自慢するわけでも貧乏や一般家庭を馬鹿にすることはしないがすぐに調子に乗る性格なため面倒臭い。大抵巻き込まれるのは僕だ。黒子は静かに溜息をつき、名前の向かいの椅子に座った。
手持ち無沙汰になりマスカラを念入りに塗る彼女をじっと見つめる。そんなにしなくたって元から長いのに。なに頑張ってるんだか…

「どうせ化粧なんかしたって変わらないですよ。前から素顔見せてるじゃないですか」
「いーの。気持ちの問題なの」
「赤司くんはケバい人は好きじゃないと思いますよ」
「え?」

一生懸命マスカラと奮闘していた名前は黒子の一言で全てを中断した。目を大きく開けて黒子を見る。
しまった。やってしまった。慌ててフォローにまわる。

「あの、そういう意味じゃなくて」
「どういう意味?」
「えっと」
「赤司くんは関係ないでしょ。それに清楚な人がタイプって聞いたことあるけど、元から私当てはまってないし」
「名前さん」
「それとも私が赤司くんの好みに合わせてるとでも」
「名前さん!!」

声を荒げたからかさっきのように目を大きく開けたまま黒子を見る名前。知ってる。へこむと一気に自虐を口にしてしまう性格なのを。
そして今回へこませたのは、僕だ。馬鹿なことにこんな女の子に惚れ勝手に嫉妬した自分のせいだ。
黒子はぎゅ、と拳を握り深く息を吸った

「元から名前さんは可愛いですよ」
「…」
「僕は素顔のままの名前さんの方が好きです」
「…」

ぽかんとしている名前の表情を見て笑う黒子。彼女にはデパ地下よりもマジバよりももっと似合うものがあるのだ。

「あの、さ」
「はい」
「私がいつ赤司くんが好きって言った?」
「え、−−−…」

今度は黒子がぽかんとする番。名前はそんな様子にはぁー、と溜息をついた。

「ドライブスルーからマジバまで話が進んだのに連れて行きます、とはならないのね。黒子くんは」
「……」
「それとも私と一緒じゃ世間知らずで恥ずかしいとか?なら別にい」
「行きましょう」
「…へ?」
「行きましょう」

彼女の手を握る。なんだ、とんだ勘違いをしていたのだ。
マジバだってデパ地下だって余裕です。案内出来ます。そう言えば驚いていた彼女は嬉しそうに頷いたあと「つけまつけてからね」と微笑んだ。まだやるんですか。

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