忙しくて休みもろくに取れてなかった日々も終わりようやく日常が戻ってきた。すぐに飲み会を開き終電で慌てて帰ってきた。玄関前で鞄を漁る。既に夢心地だ。しかし時間が経つに連れてそれも覚めて来る。同時に焦燥感が襲ってきた。

「鍵が…ない」

サァ、と青ざめる。落とした!?いつ失くなったの!ドアノブをがちゃがちゃするが突然開くはずもなく。呼び鈴を鳴らすが一人暮らしの家に応答する人もおらず。どうしようとすっかり頭が覚醒した。この時間だし管理人さんも寝ているだろう。店に戻ろうにも電車は動いていない。夜が明けて管理人さんに言って開けてもらうまで家には入れないだろう。
予備の鍵は家の中にあるため失くしてもとりあえずはなんとかなる。
しかしずっと玄関前で突っ立っているわけにもいかない。さっきまで一緒に飲んでいた友人ならまだ起きてるだろう。家も歩いて行けない距離ではないし泊めてもらおう。そう思って電話しようとした時だった。

「どうかしたの?」

いつの間にかお隣さんの赤司さんがドアからこっちを覗いていた。いつも見るきちっとした格好ではなく部屋着姿だ。静かにしているつもりだったが五月蝿かったのだろうか、密かにイケメンのお隣さんとばったり会う度ガッツポーズしていたあたしは頭を抱えたくなった。
部屋着姿見れたのはラッキーだけど、酔って鍵を失くすだらしの無い女だと思われてしまう。
しかし、ここで嘘をついたところで意味もない。五月蝿かったことを謝り「鍵落としちゃったみたいで」と苦笑いする。

「五月蝿くはなかったよ。ただこっちの窓を開けててね。家に入らずにずっといるのが見えたから」
「ご心配おかけしてすみません。すぐ離れますので」
「入れるの?」
「朝になったら管理人さんに開けてもらいます。今日は一旦友人の家に泊まらせてもらおうかと」

そう言えば赤司さんは眉をひそめた。

「こんな時間に出歩くの?女の子が一人で危ないよ」
「近いので大丈夫ですよ。20分程度ですから」
「ずいぶんかかるじゃないか」

お兄ちゃんのような心配をされる。いや、この場合お父さんみたいだろうか。確かにもう深夜だがたった今駅から歩いて帰ってきたあたしからすれば寝る場所を確保するためなら20分歩くなんて問題はない。ナンパひとつされずにここまで来たし。

「平気ですよ。あと数時間経てば管理人さんも起きるでしょうし。早寝早起きで有名ですから」
「僕の家に来る?」
「大丈夫で…えっ」
「危ない夜道を歩くよりすぐに管理人を呼べるこっちの方がなにかと都合が良いと思うけど。もちろん僕は違う部屋にいるし、君の部屋は鍵をかけてくれれば問題ないだろう」
「なに言ってるんですか!そんなに甘えられませんよ」
「じゃあその友人宅までおくる」
「はい!?」
「ここまで聞いたら心配だから」
「…そこまでいくとありがた迷惑ですよ」
「だろうね。で、どっちがいい?」
「…」

まるで怯まない赤司さんに戸惑う。イケメンだと騒いでいても名前くらいしか知らない男の人の家に入るなんて即お断りだ。けど確かに、今の状況でその提案は魅力的だ。

「赤司さん彼女いるんじゃないんですか?」
「彼女はいないよ」
「え、意外。…って、そうじゃなくて」
「いいから、入りなよ」

少し棘のあるトーンだったため驚く。貴重な睡眠時間を削らせてるのだと申し訳なく思う。別々の部屋で鍵をかけていいならまあ、大丈夫かと思い直す。赤司さんだってこんなとこにいないでさっさと眠りたいはずだ。

「…では、お邪魔します」

半ばヤケになりながら、あたしは隣の家へと足を向けた。

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