「はい、赤司。お裾分け」
「ありがとう」

お隣の赤司に林檎の入った籠を渡す。実家から送られてきたけど段ボール一箱分じゃとても食べきれないと思って持ってきた。
出掛けるというほどでもない距離のせいでメイクも無し、お洒落も無しのTシャツ一枚に短パンだ。「お茶でもどうぞ」と部屋に通される。遠慮なくリビングのソファに腰掛けた。お茶の準備をしている赤司を放ってつけっぱなしだったテレビを見る。サスペンスドラマのようだったが途中から見たんじゃ分からなかった。

「はい、どうぞ」
「ありがと」

カップを受け取りさっそく口につける。赤司は自然に私の隣に腰掛けテレビを見始めた。彼がお茶の準備をしている間に場面が変わっている。間が抜けても理解出来てるのかは彼の表情からは分からなかった。

「…赤司もこんなの見るんだね」
「こんなの?」
「ニュース以外は見てなさそうに見える」
「ニュースはネットで見てるからテレビでは見てない」
「そうなんだ」

赤司の方に視線を向ければ予想以上に近い距離ですぐにテレビの方へ戻した。さっきまで気付かなかったが肩には彼の腕がまわっていた。けど彼の視線はテレビ一点。無意識の動作なのかもしれない。
よく出入りするのを見かける彼女とよくこうしていて、意識がテレビに向いてるからこういう体制になってしまってるのだろう。
どうしていいか分からずお茶を飲むことしか出来なくなったがそれも飲み干してしまった。私は肩の腕を無視し、茶碗をガラスでできているテーブルに置いた。気付いたのか彼は腕を引っ込める。やっぱり。間違えか。

「ごちそうさま。そろそろ帰るね」
「来たばっかりだろう」
「元はと言えば林檎をお裾分けしに来ただけだし」
「もう少しで犯人だって分かる」
「最初から見てないから話分かんないし」

なぜか帰ろうとするのを引き止めようとする赤司を疑問に思いながら立ち上がると、不意に赤司が立ち上がった。

「なに?」
「最近見ないな。お前の恋人」
「……な、」
「よく出入りするのを見かけていたが最近は見なくなった」
「…あの人は最近忙しいの。仕事なんだからしょうがない」
「嘘だな」
「…嘘じゃない」
「寂しいからここへ来たんだろう」
「違う!そんなんじゃ」

腕をひかれ乱暴的なキスをされる。必死で離れようとするが力の差が歴然としている。彼にかなわない。
動揺していた。否定しながらも感じていた自分の気持ちを言い当てられたこと。自分に彼氏がいるし、赤司にも彼女がいること。そして、キスをされてることに嫌悪を感じていない自分。
ようやく離れると唾液の糸がたら、と垂れた。

「林檎の礼だ」
「……赤司にとってずいぶん林檎に価値があるんだね」
「お前とキスなんてそんな価値だろう」
「…ああ、私の方に価値がないって?農家の人に謝れよ」
「お前こそ、卑下してどうする」

これ以上隙を作りたくない。赤司を睨みつけて部屋を出ようとした。ドアノブを掴むと頭上からドアをおさえられた。

「…どいて」
「キス以上ならお前はどうする?」
「赤司。彼女、いるでしょう?やめてよこんなこと」
「お前だって彼氏がいる」

ぐい、と肩をひかれ赤司の方を向かされる。少し笑みを浮かべているように見えてゾクリとした。

「…浮気する気?」
「さあ、どっちが浮気だと思う?」

予想よりも優しく抱きとめられ固まってしまう。最近彼氏とは喧嘩ばかりでしばらく会ってないし連絡も入れてない。仕事が忙しいとは留守電に入っていたけどきっと嘘だろう。分かっていながら仕事なら仕方ないと騙されたフリをしていた。そうじゃないと終わってしまうから。
あの人に優しく抱きしめられたことなんていつのことだろう。キスしたのはいつのことだろう。考えると悲しくなってしまう。気を抜けば彼の背中に腕をまわしそうになる。彼に、甘えてしまいそうになる。

「赤司、やめて」
「寂しいんだろう」
「だからって赤司が気にすることじゃない」
「…気にする」
「え?」
「好きな女の弱みにつけこむチャンスだろ?」

耳元で囁かれる。好きな女?意味が分からない。だって、彼女、いるじゃん。

「そうやって二股かける気」
「あ、ばれた?」

くすくす聞こえる声音には悪気なんてない。こいつはそういう人だ。目が合うと楽しそうに笑った。

「分かってるならそれでもいいよ。遊ぼうか」
「……いいよ」

返事をすれば自然と始まるキス。舌を絡め、息苦しくなる。ああ、もういいよ。
そっちがその気なら私だって、


/tiny

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