「ぎゃ、着替え中!?」
「…覗いておいてよく言うね」
「ごめん!いると思わなかったから!」

もう少し遅く来れば良かった。名前は彼の上半身を見ないように俯きながら更衣室に入った。
赤司くんとは洛山高校で同じクラスになった。前から京都に住んでたわけじゃなくバスケ部の推薦でここまで来たらしい。私も親の転勤であちこち移動してたから同じ中学の友達なんているはずもなく。既に作られている輪に溶け込めず一人欠伸をして座ってる彼と自然と話すようになった。
といっても赤司くんは推薦なんだから一緒にしたら失礼だけど。

「名字はマネージャーになるんだったね」
「うん。今日は入部届貰いに」
「言っておくけどバスケのことでは厳しいから。マネージャーだろうが女子だろうが真面目にやらないようなら容赦しないよ」
「……分かった」

ただならぬ空気を纏って言う赤司くんに少し恐怖を覚える。けど、すぐにいつものように「まあ名字なら大丈夫だろうと思って誘ったんだけどね」と笑みを浮かべる。褒められてるんだろうか…文系の私がマネージャーなんてやろうと思ったのはもちろん赤司くんにやってみない?と言われたからだ。「日本一になるし入っても後悔しないと思うけど」と当然のように日本一と口にした彼に驚いた。
けど、同時に痺れた。バスケ部に入ろうと決めた瞬間だ。

「…で、赤司くんはいつ出てくの?」
「…はあ?」
「え、だってもう赤司くんは入ってるんだから練習でしょ?」
「君ってたまに酷いよね。一緒に入部届け探そうとしてあげてるのに」
「そうなの?それは有難いけど。上着てから探してよ」

不服そうな顔をしながら上を着る赤司くん。やっと赤司くんの方を見ることが出来る。窓の方から視線を移し見れば彼の手には既に入部届と書かれたプリントがあった。

「そこに入ってた」
「あ、ありがとう。…じゃあ、行くね」

出て行こうとすれば待て、と止められる。振り返れば腕を組み偉そうにこっちを見ている赤司くん。え、なに。首を傾げればにやりと笑われた。

「爪を切れ」
「………は?」
「足の爪。思ったより伸びた」
「え、赤司くんの爪?」
「ああ」
「…私が切るの?」
「他に誰がいる」

え、マネージャーってそんなことまでするの!?タオル渡したりドリンク用意したりユニフォーム洗濯したり練習に必要な雑用をするんだと思ってたけど。

「私が知らないだけ…?」
「そうだ」
「えと、でも…爪切り持ってないんだけど」
「保健室から持って来い」
「え、」
「持って来い」

にやりとした笑みを貼り付けたまま言われてたじろぐ。クラスでも少し偉そうな喋り方だと思ってたけど赤司くんの口調なんだと思ってた。けどあからさまに俺様なんですね!理解した!
だからこその日本一発言なのか。けどどうせ目指すなら日本一を目指して欲しいに決まってる。確かにあの時ぞくぞくした。バスケなんて体育の授業でやったくらいしか触れたことはなかったけど。日本一になりたいと思った。そのためにはなんでも手伝わないといけないだろう。なんせ日本一なんだから。試合に出ない私が一番にすることは選手のために尽くすこと。よし、やる気出てきた。

「分かった。すぐ持ってくるから!」

だっと走り出す。まだ入学してちょっとの学校だが保健室は前に行ったから場所は覚えてる。バスケ部か…なんだか楽しくなってきた。
更衣室を出た私は、そのあと赤司が言った言葉を聞けるはずもなかった。

「ほんと、単純バカは使いやすくていいな」

赤司は飛んで行った名前を見送るとくすりと笑った。



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騙してパシリにしたけどいつのまにか好きになってて、でもそれに気付かなくて嫉妬したり大事にし始める赤司くんください

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