「赤司が接触事故!?」

さつきちゃんから聞かされたそれは信じられない事件だった。体が一瞬にして固まったように動かなくて、背中にひやっとした感覚。なんでもぶつかったのが赤司よりも身長も高くてガタイも良い選手だったらしく頭が少し切れたらしい。今は保健室に連れて行かれたとか。いくら試合が中断したからって忙しいだろうに、さつきちゃんは私のところに連絡してくれた。

「別に大したことはないと思うの。けど中々血が止まらないみたいで」
「分かった、ありがとう」

礼を言って保健室へ走った。救急箱を持って行こうとしたがさつきちゃんに「保健室に道具は揃ってるよ」と言われ救急箱を元のところへ戻した。それくらい、動揺してるらしい。
一度深呼吸をして保健室のドアを開ける。そこには椅子に座った赤司と、彼の前に屈み、消毒液を持っている黒子くんがいた。思ったよりはピンピンしていて少しほっとする。

「あ、赤司大丈夫なの?」
「…遅い」
「一応消毒はしました。あとはガーゼを貼るだけです」
「黒子、あとは名前にやらせる。お前はまだ試合が残ってるだろ?」
「はい、そうします。…名字さん、いいですか」
「あ…うん」

立ち上がった黒子くんはドアの前まで歩き、一瞬止まった。

「大丈夫です。勝ちますよ」

振り返らずに勝利宣言。なんだろう、別に勝つことは分かってる。赤司がいなくなったところで彼らは攻撃力が落ちたりしない。いつも通り点差をひらいて勝つだろう。けど、なんだか今の黒子くんは

「…格好良い」
「おい。怪我人を放って黒子に見惚れるなんてどういう神経してるんだ」
「ご、ごめん」

確かにそうだ。慌てて赤司に向き直る。すごく不機嫌そうな顔をしながら「早くやれ」とガーゼを突き出す。

「痛い?」
「…別に平気だ」
「ぶつかった人、試合出るのかな」
「だろうな。まあ、あいつらにいつもより点差つけて精神的に追い詰めろと言ってあるからな。どうせ試合が終われば別の意味で頭痛いだろう」
「……そんなことして、青峰がまた苦しむよ」
「俺がこうなってるんだから周りも苦しんでなきゃ納得いかないだろう?」

まだ不機嫌だな、と赤司の口調を聞いて思う。けど、流石怪我をしても赤司様だ。変わらなくてほっとしつつ呆れつつ。白のガーゼをテープで固定すると余計に目の黄色が目立った。
私は彼の前にベッド脇に設置してあるパイプ椅子を運んで座る。

「でもびっくりした。赤司が保健室行ったって聞いて」
「よく言うね。黒子に見惚れてたくせに」
「え、だからあれは…元気そうだから安心しての言葉で」

むすっとする彼に慌てて言い訳をする。だって本当にそうだし。
赤司が酷い状態だったらそんなこと考えられる暇なかったもん。そう言えば「じゃあもっと酷い怪我してなきゃいけなかったのか」と睨まれる。なんでそうなった。

「…でも安心した。赤司もみんなのこと認めてるんだね」
「どういう意味だ」
「自分がいなくてもあの5人なら点差ひらいて勝てるって思ってるんだって思って」

それが、すごく安心した。
笑うと不可解そうに眉を顰める。

「だってみんな一人で戦ってるからさ。でも、みんなの実力は認めてるってことでしょ?良かったよ」
「…お前はどうなんだ」
「私?信じてるよ。みんなも、赤司も」

言ってみると赤司は「そうか」と呟いて私から顔を逸らす。え、なに。照れてんの?照れられるとこっちが恥ずかしいんですけど。

「ならいい」
「やっぱ赤司は信じてない」
「あ?」
「こっわ!怖い!」
「どうして俺だけ信じてない。お前は何様だ」
「だって」
「良い機会だ。試合が終わるまでじっくり聞いてやる」
「え、なにそれ!今から体育館戻るんじゃ」
「どうせ行ってもなにか変わるものでもない。ならお前に時間を割いてやる」

ここには誰も来ないだろうからな。

にやりと笑った彼の表情にさっきと同じように体が動かなくなった。だ、誰か助けて…!


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