「あれー、ミドちんがお菓子持ってるなんて珍しいね。しかも数量限定のチョコスティック。レアものじゃん」
「かに座のラッキーアイテムなのだよ。今日は12位だったからな」
「ふーん」

朝練後の更衣室。制服に着替え終わりロッカーを閉める。
今日のおは朝占いのラッキーアイテム、チョコスティックを俺が手に持っているのを紫原が見つけた。菓子のことになるとこいつは異様に目敏い。

「…おい、なにをしている」
「いただきまーす」
「おい!やめろ!」

紫原は躊躇いもなくチョコスティックの袋を開け口に入れる。今日のラッキーアイテムが、食われた。

「ふざけるな!今日はまだ始まったばかりだぞ!俺になにか不運が来たらどうするつもりだ!」
「まあまあ緑間っち落ち着いて…」
「そうだよー。いいじゃん、どうせテレビの占いなんて当たらないんだからさ」
「なんだと?」
「おい、お前らうるさいぞ。着替え終わったなら早く教室に行け」

赤司に止められ渋々黙る。それでも紫原を睨んでいるとお詫びと言っていちごのキャンディを渡してきた。これじゃラッキーアイテムにならない。
紫原は他の奴らと一緒に素知らぬ顔で教室に向かって行った。くそ、腹が立つ。
他の全員が更衣室を出て俺一人になった。設置してあるベンチに座る。今から近くのコンビニに行けるだろうか。いや、もう間に合わない。
考えていると廊下が騒がしくなる。マネージャー達も教室に向かうのだろう。時計を見ればあと少しでホームルームが始まる頃だった。溜息をつき立ち上がる。
一歩歩けば扉が開いた。

「…あれ、緑間くん?まだいたの?」
「…名字か」
「あ、ごめん。覗こうとしたわけじゃないんだけど人の気配がして」
「別にいい」

更衣室の扉を開けたからか慌てて言う名字。どうやら他のマネージャーは先に行ったらしい。廊下に出れば名字一人だけだった。

「どうしたの?なんかあった?」
「なぜそんなことを聞く」
「眉間にシワ、寄ってる」
「……」
「あれ、よけい深くなった」

苦笑いする名字。彼女とは別段仲が良いというわけではない。紫原にも黒子にも桃井にも、誰にも同じように接している。だが特に話題もなければ話さない俺からすればよく話す奴らの中に入っていた。

「…紫原に、チョコスティックを食べられた」
「え?」
「ラッキーアイテムだったのだ。おは朝の」

はあ、と息を吐き眼鏡の位置を直す。教室へ歩き出せば名字は慌てて着いて来た。

「…緑間くんって、かに座だよね?」
「ああ」
「なら私のあげる。はい」

鞄から取り出したのは朝俺が買ったのと同じ数量限定のチョコスティック。驚いて名字を見れば「私もかに座なんだ」と俺に手渡した。

「…いいのか?今日のかに座は12位だ。これからなにがあるか分からん」
「うん、いいの。今日はもう良いことあったから」
「……早いな。だが助かる。代わりにこれをやる」
「いちご?」

紫原が無理矢理寄越したいちごのキャンディを渡せば名字は嬉しそうに礼を言った。大事そうに鞄にしまう。

「そんなに菓子が好きなのか」

あいつと同じだな。呆れると「やっぱり鈍いなあ」と名字は呟いた。何を言ってるかさっぱりだが貶されてることは分かった。自然と眉間にシワが寄る。
そんな様子に気付いてないのか私に良いことあったってのは、と彼女は続ける。なにがあったかなんて別に聞いてないのだよ。

「緑間くんと二人きりで話せたことだよ」
「……は」
「だから、もう今日はいいの」

そう言うと誤魔化すように「じゃあ先行くね」と走って行く名字。驚いて何か言うことも後を追うことも出来ずただ彼女が見えなくなるまで目で追った。
二人きりで話せたことだよ
やっぱり鈍いなあ
緑間くんってかに座だよね?
さっきまでの彼女の言葉が頭に浮かんでくる。これは、所謂−−−


「あ、もう緑間っちなに遅刻してんスか!朝練出てたのに授業中に教室来たって聞きましたよ!」
「黄瀬、マネージャーの名字と俺は同じかに座だ」
「はあ?」
「なのに今日はおかしい。12位の運ではないのだよ」
「もう何言ってんスか?占いなんてそんなものッスよ」

いくらラッキーアイテム食べられちゃったからってそこまで落ち込まなくても、と黄瀬は腰に手を当て呆れたように溜息を吐いた。
それに、と俺を見て続ける。

「名前っちはいて座ッスよ?」

ぞくり、と鳥肌が立つ。動かなくなった俺を見て黄瀬は「大丈夫ッスか?緑間っち」と変な目を俺に向けた。
全然大丈夫じゃないのだよ。

今日の1位は、いて座だ。

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