女の子に困ったことはない。

モデルをやってるから初対面の子でも会えば驚いた顔から好かれようとこやかな顔になる。整った顔をしてる自覚はあるしスポーツだってキセキの世代とか呼ばれるくらいのセンスがあるって思ってる。謙遜はしない。そこが他のキセキの世代のみんなからウザいとか言われるところだけど気にしない。
作ろうと思えば彼女はすぐに出来るし今までそうしてきた。だから、こんなに一人の女の子に悩むことになるなんて思ってなかった。
あれはまだ、彼女を同じ学校の女の子、としか意識してなかった頃の話だ。

「ん、あれは…」

放課後、マジバでも寄ろうといつもと違う道を歩いていると同じ高校である名字さんが通っているのを見かけた。
前に友達の付き添いで部活の俺を見に来ていた。俺目当ての子とその付き添いの子の違いは見てれば分かる。彼女は寧ろ同じクラスだという青峰っちを見ていた。珍しかったから覚えていた。
付き添いの子だとしても強引に言い寄れば手に入る。なんせフられたことなんてないんだから。ま、この時はそんな気を起こそうなんて全く思ってもなかったけど。そんな気を起こしたのはこの後だ。

「ねえねえ、一人でなにしてんの?」
「……」
「あれ無視?ねーどっか遊び行かない?」
「行きません」
「ツンデレってやつ?可愛いね」
「デレてないし」
「面白いね、気に入っちゃった」
「…」

あからさまなナンパだ。歩いてる名字さんの歩幅に合わせて横に男が歩く。後ろ姿しか見てないけど思いっきり迷惑そうだ。無視を決め込んだらしい彼女に男は肩を掴んだ。
ほとんど話したことはないけどこんな現場を見てれば黙っちゃいられない。

「ちょっと」
「ぐぅっ…!」

話しかけたのと男が声にならない悲鳴をあげたのは同時だった。名字さんが突き出している拳と腹の辺りをおさえる男に驚いて目を見開く俺と、俺の声に気付いたのかこっちを見て驚いている名字さん。
けどすぐ彼女は俺の手を掴み走り出した。引っ張られながら近くの公園まで来るとやっと名字さんは手を放し俺を見た。

「…あの、ごめんなさい」
「いや、大丈夫ッスけど…さっき…」
「えと、ちょっと加減間違えちゃって」

照れたように笑って髪を耳にかける。体育館で見た時は大人しい子かと思ったけど目の前にするとだいぶ印象が違う。なにより男を動けなくするくらいの突きって相当だ。その場面が頭から離れない。

「えっと、ごめん。名前なんだっけ」
「…ええ!?覚えてないんスか!?」
「ごめん。あの、見覚えあるんだけど…帝光中だよね?」
「そりゃないッスよ!帝光なのは制服見りゃ分かるっしょ名字さん!」

名前を言えば驚いた顔をして見上げられる。なんで知ってるんだって顔だ。

「前に体育館来たでしょう?お友達と」
「…あ、バスケ部か!大輝くんと同じ!」
「…そうッス」

同じクラスだから当たり前だが青峰っちのことは覚えてて自分が覚えて貰えてないことにショックを受けた。

「黄瀬涼太っていいます」
「そっか、黄瀬くん」
「……涼太で」

青峰っちが名前呼びだったことが頭からはなれず普段の俺のファンにも言わないことを言ってしまう。けど彼女はいつも俺が言ってることなんて知らない。不思議に思う様子もなく素直に頷いた。

「じゃあ私も名前って呼んで」
「名前…さん」
「さんって。堅苦しいなあ」

笑う彼女にドキドキする。でもドキドキはさっきからだ。彼女が男を殴ったときから驚いてドキドキしてたし走って息が乱れてまたドキドキして、今もずっとドキドキしてる。だから気付かなかった。あの時の俺どうにかしたい。あの瞬間からきっと俺は恋に落ちたのに。青峰っちに対するショックは嫉妬だったのに気付かなかった俺どうにかしたい。

「てか、強いッスね、名前さん」
「それだけが取り柄だからね。あ、さっきの内緒にしてくれる?警察沙汰になるから」
「…もしかしてなったことあるんスか?」

てことはナンパは今までにもあったのか、と考えながら警察沙汰になったイメージもする。呆れた声を出すと彼女はただにっこりと笑って言った。

「ナイショ」

バキューン

音にしてみるとこんな感じ。ここで俺はようやく分かった。この子に、撃ち抜かれた。
これを話せばみんなどこがどうなってどの辺りに惚れたのか理解出来ないって口を揃えて言う。けどいいんだ。ここで理解されても困る。
それからは教室に青峰っちに会いに行く振りをして彼女に話しかけたりアタックの日々が続いた。名前も呼び捨てにした。けど、応じてくれないところにまた驚いた。フられた。なのに、またあのドキドキを味わう。
あんまり強引に行けば拳が飛んでくる。目の前で見ちゃってるから中々いけない。けど、今までこんな本気になったことない。どうやったら彼女の笑顔を俺だけのものに出来るか毎日悩んでる。

「名前は知らないんスよ。俺がどれだけ惚れたか」
「ふうん」
「あ、聞いてない!もー!聞いてくれないと言っちゃいますよー?おまわりさーん、ここに人を殴った子がいますー!」
「へえ、涼太も殴られてみる?」
「じょ、冗談ッス」
「そうだよね。あたし涼太信じてるから」
「っ、ああもう!俺の気持ち知っててそんなのずるい…!」

まだ進展もないけどこうして話をするだけで幸せ。けど、いつか絶対名前を手に入れるッスよ!

/ストロベリー夫人はご機嫌斜め

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