最初は何かの間違いかと思った。私を見つけるたびちょっかいを出すのはただ反応を見て面白がってるだけ。自分でも思考が固いことは知ってる。だからそう思ってた。

「どういうつもり?」
「どうって、この通りのつもりですけど。あ、もしかして口に出して欲しいんですか?」

私の上に覆い被さりながらくすくす笑う。床に乱雑に垂れた髪をすくい、少しずつ手から落ちていくのをじっと見つめる。そこに意味はない。私の反応を見たいだけ。
けど私は特に焦りも羞恥心もなくただ彼を見るだけ。そこに感情があるなら強いて言えば「呆れ」だ。

「生徒会長にこんなことをしていいと思ってるのかバスケ部。いくら全国制覇したって学校がなんでも許すと思うなよ」
「やだなあ。バスケ部なんて総称で呼んで他にも迷惑がかかるってこと言いたいの?」
「話を逸らすな」
「ていうか、ここまでしてもまだその仮面崩さないんだね」
「私のこれは元から。崩れないよ」

ぐっ、と。彼の胸、心臓の位置であろうところに手を当てて押す。こいつがこれ以上のことをするつもりはないと分かっていた。しばらく黙っていた赤司だが予想通り私から放れた。

「で、なに怒ってるの」
「…気付いてたんだ。鋭いね、先輩」
「あんた意外と顔に出やすいタイプだって自覚した方がいいよ」
「……学校」
「学校?ああ、志望校」

今は夏休み前、中学三年の私はもう志望校が決まっていてもおかしくない時期である。恐らくどこかから聞いたんだろう。他の生徒に言ってみてもきっと名前も聞いたことがないだろう私の志望校。
床に座り込んだままの私を赤司は机に座って見下ろした。
彼はまだ二年生。夏が終われば部のリーダーになる。まあ、既に恐れられてはいるだろう。

「噂通り。私は京都の高校へ行く」
「なんでまた」
「色々縁があって。私に合ってると思った。だからそこに行く」
「…先輩が言うなら、その学校に行くんだろうね」

今までもそうだった。生徒会長になった時も。名字が言ったことはほとんどその通りになる。
ただ一つ言葉通りにならなかったこと。赤司の性格を知った時に「あんたからすると私は一番嫌いなタイプだよ」と言ったことだ。だがそれは外れ、懐かれた。むしろこの発言のせいで興味を持ったと言われた時は目から鱗だった。

「俺に言わないで勝手に決めて酷くないですか?」
「なんだそれ。ただの後輩のあんたには関係ないでしょ」
「ただの後輩以上になることを許してくれないのはそっちじゃないですか」
「いいからあんたはバスケやんなさいよ」
「それは言われなくてもやるけど」

静かに怒るというのはこういうのを言うんだろう。私も感情を表に出さない方だから分かる。私と赤司が似てるのだ。

キーンコーンカーンコーン

鐘が鳴った。見回りを再開しなくては。見回りの途中で赤司に止められたのだ。
立ち上がりドアを開ける。視線が気になり、振り返るとすぐに目が合った。

「…京都の、なに学校か知ってる?」
「さあ」
「洛山高校。バスケットボールで有名なとこ」
「……」

赤司は驚いたように目を大きく開いた。まさか私が帝光以外のバスケ部の話をするとは思ってなかったんだろう。私は全国制覇した帝光バスケ部に誇りを感じてるから。

「あんたが諦めもせず三年連続全国制覇したら、考えてあげてもいいよ」

なにを、とは言わなくても分かるだろう。なにか言う前に私は教室を出た。もう振り返らない。
きっとこれから私を見かけても話しかけて来ない。私も引き止めない。きっと卒業式でも。
次話すとしたらあいつが高校生になってからだろう。そうなったとしてもあの性格は変わってないんだろう。そう思うと笑いが込み上げてきた。


「あんたからすると私は一番嫌いなタイプだよ」


「へえ。…先輩からすれば?」
「私からすればどうでもいい。でも、意思が強い奴は見てて気分が良い」

その時初めて、先輩の笑った顔を見た。


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