下駄箱のフタを開ければ上履きの上に見知らぬものが乗っていた。
なんだろうと手に取ってみれば途中で会った黄瀬くんが騒ぎ立てる。

「ああ!名字っちそれ、ラブレター!?」

その一言が全ての元凶だった。






「あ、あの、征?」
「なんだよ」
「ボール磨き終わったけど」
「ふうん。もっと早く終わらせろよ何年磨いてると思ってるんだよ」
「ごめんなさい!」

全力で土下座をした。怖い。怖すぎる。

黄瀬くんの大声で朝のうちに瞬く間に広まったらしい。差出人の無かった手紙は放課後体育館裏で待ってると書いてあった。文面を見た黄瀬くんにラブレターだとか決闘の申し込みだとかからかわれる。彼が騒ぐからどんどん周りに浸透していく。
そして部員の意識がそっちにいったせいで赤司もご機嫌斜めなのである。お前のせいで誰も集中しないんだけどどうしてくれんの。無言でそう言われてる気がする。

「いや、それは違うと思うッスよ」
「もう怖いよ怖い」
「ていうかみんなラブレターの相手が気になるんスよ」
「ラブレターか?これ」
「絶対そう!誰なんスかねー。本当勇気ある…」
「ていうか、ボール磨きの報告一緒に来てくれない?」
「名字っち、頑張ってくださいッス」

そうしてにっこり笑顔で拒否された私は、項垂れたまま一人で向かったのだ。


部員全員が興味津々なのは名字を呼び出すなんて怖いもの知らずな奴がいるんだ、と思ったからだ。
名字はバスケ部のマネージャーでありバスケ部主将の赤司の幼馴染である。当初から赤司が名字を幼馴染以上に思ってることは有名だった。本人が言わなくても見てれば分かる、という風に。
その名字にラブレターとなったら赤司がムカつかないワケない。
ましてや体育館裏なんて。体育館はバスケ部の活動場所だ。名字がマネージャーなのを知って、なのだろうか。

「名字ちんにラブレターか。当分部室に行けないね」
「うわ、俺帰ろっかな」
「今名字っちがボール磨きの報告に行ってるッス」
「でもそれから随分経ってますよね」
「手紙の奴、赤ちんのこととか知らないんだろうね」
「なんか可哀想だな…」
「こうなったら体育館裏に行くのだよ」
「ナイスだミドちん」

見に行こう、とぞろぞろ外へ向かうと廊下で名字とばったり会う。しかし本人の名字はこっちに向かっていて外の方向ではなかった。

「名字っち!どうしたんスか。そろそろ約束の時間じゃ」
「約束って。私別に行くとは言ってないし」
「確かに名前を伏せて呼び出すなんて怪しいのだよ」
「えーつまんねえ。名字行けよ」
「青峰…私で暇潰してるだろ」
「赤司くんはどうしたんですか」
「ああ、なんか私の代わりに行くって」
「おお!まじかよ!」
「バスケ部の士気に関わるからこういうことはするな、って言いに行くってさ」

赤司が言ったことをそのまま伝えるとみんなは白けた顔をした。「それって」と紫原くんが呟く。

「なあ、それ赤ちんが彼氏って思われんじゃない?」
「まさか。バスケ部主将としてでしょ。そういうの征なら上手くやるよ」

そう言うがみんな不服そうな顔をした。行くと言い出した征十郎には「いいか、これはバスケ部のためだ。分かったな」と念をおされた。
ていうかあんな悪魔が彼氏とか有り得ないよ。そう言えば今度はみんな表情が凍りつく。

「だって滅茶苦茶怒ってたもん。怖かったもん。俺が行くからお前は戻れって言われたら戻るしかないじゃん!」
「お前それが本音だろ」
「…てへ」
「可愛くねえー」

げんなりする青峰の腹を一発殴る。
こんなことしてもこいつには全くダメージがないんだろうけど。

「そういえばみんなは揃ってどうしたの」
「告白現場を見に行こうとしたのだよ」
「……やっぱり私で暇潰してる」
「やだなあそんなワケないじゃないッスか」
「じゃあ早く戻れよ」

低い声で言われてびくっと反応する。振り返ればさっきの話していた征十郎が。

「赤司くん」
「お前ラブレターの奴に会いに行ったんじゃ」
「ああ、いたずらだったみたいだよ。誰も来なかった」
「なにそれいたずら?…あ、青峰でしょ」
「はあ!?ちげえよ」
「そんなことするのは青峰しかいないよ!」

にこにこ笑って答えた赤司。それを見て今のは嘘かと気付いた。
本当は男子来たんでしょ。
追い返したんでしょ。
黄瀬が口に出そうとすれば目が合い止めた。その笑み怖いッス。

「お前らこそなに油売ってんの。早く練習するぞ」
「「「は、はい!」」」

征十郎の声に私たちは慌てて体育館に戻った。




/驕児

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