マネージャーの私は特製のドリンクを配りタオルを渡す。キセキの世代とか呼ばれる黄瀬くんはよっぽど喉が渇いていたのかすぐにドリンクをを飲み干した。

「あっつー。今日いつにも増して暑くないッスか?」
「動いたからでしょ。気温的には昨日よりは涼しいはずだよ」
「え、マジ?今なんも考えらんねッス」
「でもまた順番回ってくるんだからね」
「そうなんスよね…なんか点たくさん入る良い方法ないスか?」
「とにかくシュートすればいい」
「青峰くんのそれ参考にならないから。そういうのはさつきちゃんか緑間くんに聞いて」
「はあ?シュートしなきゃ点入んないだろ!」
「はいはい」
「おい名前!」
「飲み終わったならボトルちょうだい」

青峰くんからボトルを受け取り「そろそろ交代の時間だよ」となにやら言い合い始めた(じゃれ始めた)二人に忠告する。
無理矢理立たせ、端に出来てる列に並ばせる。交代といっても試合ではなくただの学校一周だ。それが終わってから試合。それが一定の人数で交代交代行われている。

ピーッと合図の笛が鳴る。さっきまでの二人は全力で駆け出して行った。
なんでこうこの人たちは馬鹿みたいにバスケのことになると顔付きが変わるんだろう。
さつきちゃんもそうだ。試合中ベンチに座る彼女は目つきが変わる。けどめっちゃ頼もしい。やばい。
…あ、ドリンク補充しないと。
そう思った瞬間。

「名字!」
「え?……っ」

焦ったような声音で名前を呼ばれコートの方を向けばなにかで殴られたような衝撃。あ、ボール当たったのか。こいつらのシュートやらパスやらカットは普通じゃ考えられないようなものだから。
つーか名前呼ぶなよ。振り向いて顔で受けちゃったじゃんか。あ、でも振り向かなかったら頭に当たってたかも。それはやばいな。

「っ、痛…」
「名字、大丈夫?」

気が付けばさっき私の名前を呼んだ赤司が覗き込んでいた。そうか、あんたのボールか。

「あ、うん大丈夫。注意してなかった私が悪い。だからどうぞ練習を」
「顔おさえながら言われてもねえ」
「大丈夫だって。ほら」
「くち、切れてる」
「え?」

口元をちょんと触ればその指に血がついた。それを黙って見ていた赤司に「保健室行こうか」と切り出される。一人で行けます!と抗議するが続けてて、と他の部員に言って歩き出した。人の話聞いてくれないこの人!

「ごめん、痛かった?」
「痛いは痛いけど。周りにボールが飛んでくるのなんて当たり前じゃん。気にしてないよ」
「そう。それは有難いけど。黒子も気にしてるから後で言ってやってね」
「黒子くんが?どうして」
「どうしてって黒子のパスが当たったから」
「え、黒子くんなの!?赤司くんが当てたんだと思ってた」
「んー、まあそれも半分。レギュラー以外本当にあのパスは取れないのか相手に内緒でやらせたから」
「いやそれ黒子くんじゃなくてあんたのせいでしょ」

睨むと笑って誤魔化された。

「でもやっぱり取れないらしいね。避けやがった」
「ああ…あの黒子くんの格好良いパスね。あれを避けるのは正解だと思うけど」

あんなの取れる方がおかしい。全国で一番のバスケ部って凄まじいレベルなんだな、とマネージャーながら思う。
すると今まで笑みを張り付けていた赤司くんがじっと見つめてきた。
避けるのは正解って、言葉がすぎたかな。赤司くんを怒らすと怖いんだよなあ…

「名字が人を格好良いとか言うんだな。初めて聞いた」
「え…ああ。さつきちゃんが固有名詞みたいに言ってるから私も慣れちゃって」
「ああ、成る程」
「赤司くん、羨ましいの?」
「……」
「ごめん!ほんとごめん!」

怒ってるんじゃなかったと調子に乗ったら怒らせたらしい。思いっきり睨まれた。なんか冷気が漂ってる。ほんと怖い。

「それ、どういう意味で言ってんの?それとも意味もなく言ったワケ?」
「赤司くんも格好良いパスが欲しいのって意味で」
「……名字、ムカつくなあ」
「ひぃ!それ本人に向かって言う!?」

ツッコミを入れ足を止めれば赤司くんも止まった。実際止まってどうしようとは考えてなかったからちょっと焦る。
先に赤司くんが口を開いた。

「血、止まった?」
「……あ、うん。大丈夫みたい。戻る?」

また指で触ってみるが今度は指も赤くなっていなかった。考えてみれば唇から長時間血が流れるってことはないか、とほっとする。
体育館へ方向転換すればどういうわけか赤司くんにぐいっと唇を触られた。慌てて後ろに退く。

「ちょ、なにすんの!」
「確認しただけだけど」
「普通触らないでしょ?ていうか力入れすぎ」

ほんとこいつらの力の強さは並じゃない。まったく呆れたもんだ。むしろ顔面にボール受けて口が切れただけって私相当運が良いのかもしれない。あ、また血出た。

「…レギュラーはこれから特別メニューでしょ?別に保健室行かなくていいよ。戻ろう」
「うん。ま、それぐらいなら応急処置でなんとかなるだろ」

応急処置?
見上げれば何時の間にか屈んでいた赤司くん。べろ、と唇を舐められる。

「っ!?」
「舐めとけば治るってヤツ」

ニヤリとしてやった顔で見てくる赤司くん。それから何もなかったように普通に「ほら戻るぞ」と歩き出す。

「赤司くん!な、ちょ、まっ」
「なに?もっかいするよ」
「戻りましょう。戻ろう」

色々言いたいことはあるが二人きりのここじゃまずい。

「なんだ、残念」

赤司くんは楽しそうに笑うだけだった。

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