「痣」
「え?」
「見えてますよ」
黒子に言われきょとんとなる。痣?別に転んだ覚えもどこかぶつけた覚えもない。
そんな私の様子に黒子は指をさした。首の、少し下。その場所に心当たりが浮かび焦る。
「えと、これは」
「なんとなく分かります」
「…」
「もう少しボタン閉めた方がいいですよ」
「そ、そうだね」
恥ずかしいのと、見つかったのが黒子くんで良かったと思うのと半分。
きっと他の人だったらもっと恥ずかしかった。部室に黒子くんだけで良かった。
「あ、あのさ!このこと誰にも」
「言いませんよ。安心してください」
「…ありがと。でさ、他にない?目立つとこにない?」
開き直って聞いてみる。ずい、と近づけばその分後ろに下がる黒子くん。それに気付かないフリをしてまた近付く。
観念したのか「座ってください」とイスを促す。素直に座ると垂らしていた髪を手で束ねて上にあげられる。
「なんか恥ずかしい」
「……名前さんが言ったんじゃないですか」
「そうなんだけどさ。改まってうなじ見られるのって中々ないじゃん」
「そうですか」
こんな場面さつきちゃんに見られたらどう思われるかな、と内心ハラハラする。自分で聞いたんだから何も言えないけど。
一人で考えていたから「あの痣は、赤司くんですか」と言われたのに反応するのが少し遅れた。
「…な、なんで?」
「さっきからこっちを睨んでいるので」
「え!」
なんとなく黒子くんの視線が伝わり扉の前の小さいガラス窓を見れば微笑みを絶やさない征十郎くんが私達を見ていた。さつきちゃんに見られたら、って考えたけどこっちバージョンは考えてなかった!
微笑ってるのに目は笑ってない。黒子くんが「睨んでる」って言ったのが分かる。
目が合えば部屋に入ってくる。同時に黒子くんは私の髪から手を放した。
「やあ、早いね。二人とも」
「せせせせ征十郎くん!」
「…おはようございます」
「で、なにやってるの?」
この状況で微笑っている征十郎くんが怖い。ちょっとでも逃れようと後ろにいる黒子くんに寄ると征十郎くんは鞄を音を立てて床に転がした。逆効果だった。
「朝っぱらからこんなとこで」
「ちがっ、そういうんじゃなくて」
「赤司くんがつけた痣が目立つから他にもないか探してたんです」
「ちょ、黒子くん!?」
「赤司くんじゃなかったんですか?」
「………あ、赤司くん…ですけど」
穴があったら入りたいってこのことだ。眈々と聞く黒子くんに張本人の征十郎くんもいる。恥ずかしくて涙出そう。
「なので別に変なことしてたわけじゃないです」
「……ならいいけど」
「そのうち他にも気付く人がいるでしょうから痕は程々にした方がいいですよ」
「黒子くん!そんなはっきり言わないで!」
「すみません」
「いいえ!でもありがとう!」
変な会話を繰り広げて部屋から出て行く黒子くん。え、そこで一人にするんだ。引き止めようと口を開いたが視線が気になり声をかけるのをやめた。ギリギリだったが良い選択だったと思う。
「…目立つの?」
「こ、ここのとこ。もうボタンしたし大丈夫だと思うけど」
「ふうん」
「ちょっと、なにするの!」
「いいじゃない別に」
シャツをくいっと引っ張られ痕を確認する征十郎くん。「つけた時はもっと見てたんだからさ」と悪びれた様子もなく言われる。
「まあ確かに危ないかもね」
「…さっき黒子くんも言ってたけど程々にしてよ」
「努力はするよ」
軽いトーンで言う征十郎くん。ここまで説得力ない人も珍しいなあ、と苦笑いした。
「なー、もう入って平気か?」
「まだッス」
「赤司ちん入ってっちゃったからなー」
「待ってたらいつまで経っても練習出来ないのだよ」