不意打ちな日





煌びやかなドレスを着て、スタッフがワインをトレイで運んでいて、まさに映画のワンシーン。現実で本当にあるなんてびっくりだ。会場のあちこちに飾ってある無駄に高そうな花が目につく。あんなにいらないでしょ!止めようよあれ!


「あの、お1人ですか?」
「え…ええ、まあ…」
「良かった。僕も1人なんです。一緒にどうですか」
「あ、はは。私はいいです。ただの秘書なんで」
「ええ?…はは、あなたみたいな人が秘書だったら幸せでしょうね。僕はそんなこと気にしませんよ。あなたは美人ですし」
「…………」


え、何このマシンガントーク。なにが気にしませんよだよ。そういう問題じゃねえよ。
今は社長と出張中。前に言われてたパーティーに来てる。パーティー直前に社長からドレスを投げ渡され控え室で着替えてみるともう社長はいなかった。待っててやるから着替えて来いって言ったくせに先に会場に行って美人さん方と談笑中。……べ、別にいいけどさ。私はどうしてたらいいのかぐらい教えて欲しい!
なんか絡まれちゃったし。誰だか分かんないけどここにいるってことはどっかの社長だよね。あんま悪い事言っちゃ駄目…だよねやっぱ。どーしよっかな…。


「そんな隅で立ってるよりも踊ってる方が貴方には似合いますよ。行きましょう」
「いえ!いいですいいです」
「行きましょう」


私の何を知ってるんだ、と言いたいのをギリギリで飲み込む。ボンゴレのために頑張ってる私。ニコッと営業スマイルを浮かべたマシンガントーク(もはやあだ名)が私の腕を掴む。え、ちょ、マシンガントークなくせに行動もマシンガンじゃねこいつ。



「あの、ほんとに」
「大丈夫です」
「力つよ!……って、ちょ、そっちはまじでや」


「ちょっと」
「…え」


抵抗虚しく引っ張られていると途中、後ろから低い声で話しかけられた。この声はあれだ。うちの社長だ。しかも完全イライラしてる時の声だ。


「さ、沢田さん!」
「…すみません。それ、うちのなんで勝手なことしないでもらえますか」
「え……すみません!ボンゴレの秘書の方とは知らず」
「いいから、早く放せ」
「すみませんでしたあああ」
「……うおお」


社長の有無を言わせない声に去っていくマシンガントーク。最後の謝り方だけ私に近いものを感じた。声に出して感動しちゃったよ。


「おい」
「……はい」
「なにやってんだよ」
「え、だって本気で嫌がったら会社の評判悪くなるかなって」
「そんなの三咲が秘書ってだけで悪いんだからいんだよそんなの」
「うぉい」
「(泣いてるし…)三咲は三咲らしくしときゃいんだよ」
「なっ、待ってるって言ったのにいなかった社長のせいでっすよー!」
「あれは捕まっちゃって」
「ど…どうしたらいいか分かんなかったんですから!あんにゃろー好きにして良かったんなら堂々マシンガントークって言ってやったのに」
「分かった分かった」


ぽん、と頭を叩く。話してるうちにどんどん鼻声になってるような…
ていうかドレス胸元開きすぎじゃない?確認しなかったけど雲雀さんなに渡してんのちょっと!行かない代わりにプレゼントって意味分かんないよ!だからああやって絡まれんだよあんにゃろ覚えとけ。…そういえば三咲が髪下ろしてるの初めて見た。可愛い。滅茶苦茶可愛い。いや別にドレスとか関係なく……何言ってんだよ俺!


「ほら泣くな」
「うぅ。花粉症なだけですー」
「え…ああ、そう」


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