見返した日




「これ片付けといて」
「はい」
「これも」
「はい!」
「あっちの並べてあるのはこっちに持ってきて」
「分かりました……………って、もう持ちきれないです!」


三咲が秘書として働くようになってから数週間、全く役に立たなかったこいつも少しは使えるようになってきた。まあまだまだ一人前の秘書にはほど遠いけど。また文句言ってきたし。


「まだ持てるでしょ」
「見てくださいよ!もういくつ持ってると思ってるんですか持ちきれないって無理だって!」
「ほら、また敬語無くなってる。俺に向かってそんな口の聞き方して良いの?」
「ぎゃ!……け、蹴らないでくださいよ社長。落ちます!」


笑みを浮かべる三咲。けどこいつのことだから心の中じゃ俺に悪態吐いてるだろう。ああこの乾いた笑い絶対そうだ。分かりやすくて笑える。


「……で、スケジュール作りだっけ。出来る様になったの?」
「まあ良いじゃないですか。そんな事は」
「なんでいきなり真顔なんだよ。やっぱりお前使えねえ。機械音痴。馬鹿」
「最後悪口じゃないですか!」
「え?全部悪口のつもりだけど」
「社長の鬼ーーー!」



ピピピッ


「………」
「………」
「あれ、なんでアラーム」
「今日は雲雀さんに特訓コース組まれてるんで。これから後半戦です」
「…………ふーん」


午前中もずっと二人でやってたのに。なんだかんだ言って仲良すぎない?社長は俺なんだから。三咲も雲雀さんももうちょっと分かれよ。やっぱ秘書にとって一番大切な敬意がないこんにゃろう。


「あ、社長お茶でも飲みますか?煎れてから行きますよ」
「三咲お茶煎れられるの?」
「うぜえ」


なぜかイライラする。三咲と雲雀さんのせいだ。こいつらが仲良すぎるから。…ていうかなんで俺イラついてんだろ。理由が仲良すぎるからっておかしくない?こいつらが仲良くても何のデメリットもない。もっと親密な関係になったって別に興味も……あれ、なんかそれ考えたくないんだけど。え?意味分かんない意味分かんない。


「社長」
「え、うわ!」
「…吃驚したー。驚かさないでくださいよ」
「驚かしたのそっちだろ!」
「何回も呼んでましたよ。はい、お茶出来ました。お茶っていうか紅茶ですけど。ケーキもあります」


ん…出来るの早くないかと時計を見るとあれから10分も経っていた。どんだけぼーっとしてたんだ俺。驚いていると冷めないうちに早く飲めと言われた。ていうかなんでいるの。特訓行くんじゃなかったっけこいつ。まあいいやとミルクを一杯入れごくん、と一口飲んだ。


「……………おいしい」
「でしょう!ほら!使えなくなんかないです私」
「…素直に感動した」
「ふふん、ついに負かせてやったぜ」


ニヤニヤとこっちを見てくる三咲。使えないって言ったの根に持ってたのか。まあこいつなら根に持つだろうけど。考えながらまた紅茶を飲む。


「友達にお菓子作りが趣味っていうか特技みたいな人がいてよく食べさせてもらうんですけどいつも飲み物は私が担当してるんでお茶なら自信あります。あ、紅茶以外にもコーヒーも日本茶も出来ますよ」
「……………………ふーん」


ニコッと笑った三咲と目が合ってなんとなく目を逸らす。ふーん、やれば出来るんじゃん。そう言おうとしたけどなんか三咲を見てられない。誤魔化す様に紅茶を飲む。なんだっけこれ。ああ、ギャップっていうの?きっとそれだ。そう、ギャップだよ。……イラついてた理由もこれか。もう子供じゃないしこれが何かは分かる、けど。俺がこの馬鹿で機械音痴で大事な面接間に合わないような奴を…?


「………世の中って広いんだな」


思えばこいつをわざわざ秘書にしたのも無意識のうちにだったのかも。あのとき迷ってるこいつに話しかけたときだって。なんか負けた気分。




見返した日
「……そうですね」
「今なに言ってんだこいつって思ったろ」
「社長の頭の中は初めて会ったときからよく分かりませんから大丈夫です」
「ケンカ売ってんの」
「すみませんでした」



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