囁く日


「雲雀さんは来ないんですね」
「そんなに大勢が日本を離れたらこっちが機能しなくなるだろ」

パソコンを前に苦戦する私の横で本を読みながら答える雲雀さん。もうこれも最後だと思うと寂しい。週末、社長とリボーンさんと私が日本を発つ。既に必要な荷物は送ってあり雲雀さんの使ってる部屋以外はがらんとしている。

「日本を出る気はないよ」
「ですよね…綱吉さんが行ったら雲雀さんは日本での社長ってことになるんですか?」
「そう。ようやくこの時が来たよ」
「狙ってたんですか…」

にやりと笑みを浮かべる雲雀さんに思わず苦笑い。全てを統括する人はやはり綱吉さんだけど日本の本社にいないということは雲雀さんに大方を任せるということなんだろう。意外とこの二人って認め合ってるんだなあ。
三咲は机に顔を乗せじっと雲雀さんを見る。雲雀は変わらず本を読んでいる。そっと手を伸ばし、裾を引っ張ってみる。

「ね、雲雀さん。最後なのに本読んでないでくださいよ」
「強引にきたくせに。僕のしたいことさせてよ」
「本なんていつでも読めるじゃないですかー私にはこれから会いたいと思っても会えないんですから!」
「心配しないで、会いたいと思わないから」
「ひばりさーん」
「だったら、何がしたいの?三咲は」
「私にかまえ」
「……」

呆れた顔をしつつ本を閉じ、目を合わせてくれる。見られるものだからじっと見返していたら不意に雲雀さんの手がほっぺにきた。

「ひゃいひゅうんへふは(なにするんですか)」
「一度触ってみたかったんだ」
「ひゃはふっへふふはひっはっへはふ(触るっていうか引っ張ってます)」
「同じことだろ」

ばちん、と腕をはらってて逃れる。社長と同じくらい我儘なんだよなあこの人。リボーンさんもだけど。ボンゴレカンパニーって人柄的に終わってる。

「うう、ひりひりする。力入れすぎです!もっと考えてください!」
「なにか飲みたい」
「……雲雀さん」
「紅茶がいいな、君の自信作」
「…」
「三咲のお茶が飲めなくなるのは寂しいかな」
「そっ、そんな寂しそうな顔して!待っててくださいとびきりの出しますから!!」

てれてれと顔を左右にふり嬉しそうにポットへ手をのばす。そんな三咲を見て「扱いやすい」と笑みをこぼす。寂しい顔はしてないんだけどなと思いながらお茶のことだとしても自分が素直に「寂しい」と口にしたことに驚いた。少しは大人になったのかもしれない。






「三咲」
「……」
「三咲…寝たの?」

机に突っ伏している三咲。そういえばしばらく静かだなと三咲を放って仕事をしていた雲雀は時計を見る。どのぐらい前から静かだったろう。少なくても一時間は経っている。こなしていた仕事は一区切りついた。伸びをして、三咲の隣りに座る。ちょんっと髪を引っ張ってみる。言われた通り今度はちゃんと加減をして。…起きない。

「僕はけっこう、三咲のこと気に入ってるよ」

最初綱吉が無理矢理連れて着た時はこの子も災難だな、と同情した。次に予想の遥か上をいくくらいの機械オンチでなんて使えない奴だと思った。それでも根気強く教えたのはこの子が綱吉と僕に対抗できるくらいの度胸を持っていたからだ。そのおかげで文句も多かったが怯えながら近くにいられるよりマシだった。コーヒーを飲んだ時は本気で驚いた。

「もし綱吉が嫌になったなら日本に戻ってきていいよ」
「…覚えておきます」

驚いて目を見開く。突っ伏したままの三咲。いつから起きていたんだろう。小さく返された言葉は多分、雲雀に気を使ったのだ。もし綱吉が嫌になったのなら真っ正面に綱吉に言ってから日本に戻るだろう。三咲は逃げるような奴じゃない。それは雲雀も綱吉もリボーンも、身を持って知っている。まあ、この二人がそうなるとは微塵も思ったないが。他人のことをこんなに考えている自分がおかしくなり雲雀は笑った。

「頑張ってね、負けず嫌い」
「……はい」

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