気抜けする日


「紹介します。ボンゴレカンパニーの社長やってます沢田綱吉さんです」

向かいにいる両親にバスガイドさんの「右手をご覧ください」よろしく隣に座る綱吉さんを手で促す。いきなりの娘の恋人の訪問に両親は戸惑いの色を隠せない。まあそうだろう。私だって数時間前まで夢にも思ってなかったよ!!
休日だから実家住まいの姉と兄もいるらしく襖の隙間から覗いてるのが見えた。兄弟にこういう場面を見られるのって恥ずかしいことこの上ない。

「沢田綱吉です。三咲さんにはお世話になっています」
「えーっと…こちらこそ娘がお世話になってます」
「これ、ウチの商品なんですがお菓子の詰め合わせです。良かったらどうぞ」
「……はあ、どうも」

一応会話になってるが綱吉さんの話に相槌を打つ声に覇気がない。綱吉さんも笑顔を貼り付けてるが気まずいと感じてるのが伝わる。答えてるのは全てお母さん。父親はまるで無反応だ。おお、ドラマっぽい…!

「えっと、社長さんが家へどのようなご用件でしょうか…?娘がなにかとんでもないミスをやらかしたとか…」
「あ、いえ!三咲さんはとても良く働いてくださって」
「ほう…綱吉さんそれ詳しく」

言えば見えないように脇腹を殴られる。調子に乗るなという意味と「恋人ってこと伝わってないっぽいんだけど言ってねえの!?娘の雇い先の社長が来たって認識じゃん!!!」っていう意味のパンチだとこれまでの付き合いから悟る。ごめんなさい、言ってないです。
流石に私もなにか言うべきだと思って気まずい空気の中口を挟む。

「えっと…あのね、綱吉さんとは付き合ってます。それで」
「ええ!?嘘っ、あんた雇われてすぐ最低の社長だとか愚痴の電話よこしたじゃない!ついこの前だってやっぱりあんな人嫌いだなにも考えてないんだとかなんとか…」
「ぎゃあああやめてお母さん!」

本人目の前にして悪口言ってたのをバラされる。やばい、隣をちらっと見れば凄まじく怒ってらして背筋が凍る。やべえ、あとで殺される。
そういえば最後に電話したの一ヶ月会社に来るなって言われたあたりだったような…と思い出す。てことはあれか、綱吉さんは最低の社長って印象持たれてるんだ。この気まずい空気の意味を知る。
てっきり「イケメンじゃない良い人見つけたわねー」とか言われるのかと思ってた……

「いや、それはね!…痴話喧嘩といいますか」
「俺…僕と三咲さんとは喧嘩も少々ありますがお互い大切な人だと思っています。本日は三咲さんと一緒に住むことを認めてもらいたくて伺いました」
「い、一緒に住む…?」

だんまりだったお父さんがようやく口を挟む。綱吉さんが緊張したのが分かった。

「はい、突然来て話が飛んでいることは分かっています。失礼を承知で伺いました」
「だ、駄目だ!」
「お願いします!」
「お、お父さんお願いします!」
「駄目だ!三咲は三咲は…」

綱吉さんが頭を下げ、慌ててそれにならう。

「三咲は、正一くんという幼馴染が…!」
「………は?」

綱吉さんの思わず拍子の抜けた声が出る。元々気の強い方じゃないお父さんはそれっきり黙ってしまう。お母さんもいつの間にか俯いていた。

「正ちゃんなら好きな子追って留学中だよ。今日…ていうかさっき空港見送り行ったけど」
「え?」
「正一くんの見送りに行ってからこちらに伺い」
「正一くんと知り合いなのか!?」「え、まじで!」
「あ、そうなの!」
「は、はい…」

空気が変わる。タイミングを見計らってたのか兄も姉も入ってきた。目を輝かせながら脇に座る。ナチュラルに入ってきたな。

「正一くんは…な、なんて言ってました?」
「………三咲をよろしくと」
「!!」

その一言に全員固まったのが分かった。

「あ、綱吉さん。認めてもらえたみたいですよ」
「え?」
「正一くんが…そ、そうか。それなら」
「好きな子追いかけて留学ってマジかよ!さすが正一だな!」
「ていうかもう日本にいないってことでしょ?私たちに電話もなしなの!」
「……あの」
「あ、ごめんなさい。改めて。綱吉さん、こんな娘でよければぜひ貰ってください!」
「えっ、あ、はい!」
「正一くんに他に好きな子が出来たら三咲の嫁ぎ先はないと思ってたが…まさかこんなイケメンくん捕まえてくるとは思ってなかったよ」
「私もお父さんさんがそんな失礼なこと考えてるとは思わなかったよ」

にっこり言うお父さんににっこりして返せばあはは、と誤魔化される。

「確かに。しかも超有名会社の社長って!」
「まさか、ドッキリなんじゃないの?」
「あ…あの…」
「大丈夫ですよ。ウチじゃみんなこのテンションのが普通ですから」
「そ、そうなの?」
「寧ろ最初あんな空気だったのが驚いた」

勝手に騒ぎ出す三咲とその家族。さっきまでビシビシ感じていた気まずさが嘘みたいだ。何だか拍子抜けする。重いと思って持った荷物がとてつもなく軽かったときの気分。
確かにこの自由さ、といっていいのか、周りを気にせず喋り続ける様子はまさに三咲の家族だ。

「ていうか…」

家族揃って、正一くん好きすぎだろ。

綱吉の心の叫びはこの家の誰にも伝わることはなかった。


※出す必要はなかったけどデフォルトが「三咲」なので上の兄姉出してみた。

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