別れる日


「忘れ物ない?」
「うん」
「なにかあったら電話してね。日本語は通じないよ?英語は共通語だからね」
「……誰にもの言ってるの」
「すみませんでした」

丁寧にお辞儀をして謝る。正ちゃんの留学のお見送り。空港で最後の挨拶。湿っぽい空気は出さずにいつも通りの会話をする。だって私と正ちゃんで湿っぽい空気なんて似合わなすぎる。

「…綱吉くんもありがとう。車で送ってもらっちゃって」
「ううん。俺も見送りしたかったし」
「…三咲をよろしく」
「あ、そのことなんだけどさ、」

急ににっこりした綱吉は正一に近付き耳元でなにかを話した。こそここ話していてなにを話してるのか聞き取れない。けど正ちゃんの顔が引きつったのは見て分かった。

「というわけだから、よろしくね」
「……はい」
「え、なに?なにがよろしく?」
「ナイショ」

にっこりを崩さない綱吉に三咲は正一にもなんて言われたのか聞く。だがこっちにもはぐらかされた。

「ねえ、正ちゃん!」
「あ、も、もう飛行機乗る時間だから。またね!」
「え、ちょ…行っちゃうの!?そんな逃げるような別れでいいの!正ちゃーーん!」

声を張り上げるが正一の足は止まらず。ほぼ走り去るようにしてお見送りは終わった。

「そんな…こんな別れ方予想外すぎるんですけど」
「お前煩い。空港で大声出すな」
「綱吉さんがナイショ話するからでしょ!?なんなんですか!」

さすがにショックだったのか涙目の三咲にぎょっとなる綱吉。慌てて肩を引き寄せ頭を撫でる。

「悪かったよ。ごめん」
「な、なにが、よろしくなんですかぁ…」
「だからー…えっと、挨拶?」
「あいさつ…」
「三咲の両親ってどんな人かなーって」
「……」

間が開いてからがばっと綱吉から離れる。両親…!?驚いていると綱吉さんはぷはっと吹き出し「なにその顔。馬鹿っぽい」と笑いだした。いつもならここでパンチの一発でもくらわすところだが今はそれどころじゃなかった。

「え、両親…って、あの」
「同棲すんなら挨拶しなきゃだろ」
「あ……」
「あ、ていうかいっそのこと結婚の挨拶でもいいか」
「っ!?」
「よし、行くぞ」
「…はい?」
「だから。今から行くんだよ」「…会社に?」
「おまえの実家に」
「……まじですか」

ごめん、正ちゃん。この俺様社長のせいで別れを噛み締めてるどころじゃなくなったわ。


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