狂った日




ボンゴレカンパニーから入社試験合格の通知が来てから2週間。あれからどんどん日が過ぎていって気づけば入社日当日。今日は入社式だ。
あああどうしよう緊張する。集合場所は面接会場で使われていたB塔。もう絶対遅れちゃ駄目だと思って早めに家を出た。そのおかげか一番に着いたらしい。辺りを見回しても新入社員らしき人はまだいなかった。


「よし一番!」
「…おい」
「え、あ、はい…………げ」


小さくガッツポーズをすると後ろから声をかけられた。もしかして今のガッツポーズ見られた!?どもりながら振り向くと後ろにいたのは面接試験の日に会ったあの意地悪な人だった。そ、そっか。ボンゴレカンパニーのお得意さんだったら入社式に来ててもおかしくない…か。
その人は私の反応を見てじっと私を睨んだ。


「げ、ってなんだよ」
「そっそんなこと言ってませんよ。あ、あはは」
「目泳いでる奴が言うなよ」


はぁ…と溜息を吐くその人。今明らかに私のことで溜息吐いたよね。駄目だこいつって溜息吐いた!


「…本当にこいつでいいか迷ってきた」
「はい?」


「でももう他にいねぇしな…」と呟くお得意さん。なんかぶつぶつ言ってるけど大丈夫かこの人。
眉間に皺を寄せて見ていると「うん。もう後がない」とにっこりして突然手を掴まれる。そしてそのままB塔の出口の方に歩き出した。


「ひゃ…ちょっと!なんですか!」
「いいから。黙って」


その人の妙な剣幕に抗議する間もなくただされるがままな私。え、ちょっと待って。B塔から離れちゃまずいでしょ。これから入社式だよ私。なに連れてかれてんの!なんでB塔出ちゃうの!なにエレベーター乗っちゃってんの!
エレベーターに乗っている間も手を掴まれたまま。真剣な顔をしてじっと上を見ているお得意さん。……なんか話しかけられない。

しばらく経つとチン、というエレベーターが目的の階に着いたベルが鳴る。黙ってたからか随分乗っている時間が長かった気がする。まあ最上階だし当たり前か。……ん、最上階?


「パス雲雀さん」
「ひゃっ」


ぼうっと考えていると扉が開いた瞬間、お得意さんは私をその扉の方に投げ飛ばした。そしてすぐに何かに支えられる感覚がした(支えられるというより私が突っ込んでぶつかった)。


「……本当にやるとは、思ってなかったよ綱吉」
「リボーンの言いなりはごめんだからね」




ぶつかったのは人だったらしい。上の方から声がした。首を少し上げて見ると黒髪の猫目な男の人だった。ちょっと怖そう。
視線に気付いたのか支えられていた手をそっと離し「君も災難だね」なんて言う。


「あ、貴方達なんなんですか!ボンゴレカンパニーのお得意さんってのは知ってますけど私これからそのボンゴレカンパニーの入社式があるんです。戻らなきゃいけないんです!」
「「…………」」
「私もう遅刻しちゃ駄目なんですB塔帰っていいですか」


私がやっと質問すると2人は目を合わせて黙ったまま。なんなんだ全く!私は戻ろうと振り返りエレベーターのボタンを押す。と、ばっと後ろからまた手を引かれどこかの部屋にそのまま道連れにされた。


「……っな!なんなんですか本当に!」
「三咲」
「え…あ、ああ。名前教えましたっけ」


思わず驚いてしゃがみこむ。まさか誘拐の類とか?でもこんな五月蝿いだけが取り柄の奴を誘拐してもなんの得にもない。自分で言っちゃうけど寧ろマイナスになりそうな気もする。
近付いてきた意地悪な人を見上げるとやっぱり意地悪そうな顔をしてた。


「三咲にはボンゴレカンパニーの秘書をやってもらう」
「………は?」
「もちろん秘書なんて経験ないだろうから雲雀さんに教えてもらってね。勉強しながら秘書やって」
「…はぁ」


笑ってるのに命令口調なのはなんでだ。ていうかこの人お得意さんじゃなくてボンゴレカンパニーの人だったんだ…。


「ちょっと訳ありだから集合場所をあまり上の方の奴らが使わないB塔に来るようにしたの。あ、入社式は嘘だから。お前にはない」
「ちょ、待ってください!まだ何がなんだかさっぱり。ていうか貴方達誘拐犯じゃ」
「…三咲が面接も受けてないのに合格にさせたのは俺」
「へ?そ、そうなんですか。それはありがとうございます」
「だから秘書お願いね」
「え…いやでもいきなり秘書ってそんな」
「せっかく場所教えてやったのに」
「……そ、そういえば貴方はボンゴレカンパニーの方なんです、よね?」


脅されそうになったから無理やりに話を変える。すると、彼は一瞬目を見開いてすぐにニヤリと笑った。


「そ、ボンゴレカンパニーの沢田綱吉。ああ、言っとくけど俺がボンゴレカンパニーの社長だから。」
「ああ、だから最上階に………………社長!?あんたが!?」
「ヘマしたら燃やすからね」


何をと聞くなんて出来なかった。この人の目は人を凍らせる力があるんだ間違いない。
手を掴んで笑うこの人に引きつった笑いを返した。





逃げられないと思った日


「逃げても燃やす」
「に、逃げませんとも!」



私はとんでもない会社に入ってしまったようです。


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