溢れ出す日
やっと貰えた休み時間。といってもあと5分しかないけど。庭に出て手すりを掴む。疲れた…あの人社長より人使い荒いんだけど。これ秘書の仕事じゃないよ体力勝負の仕事だよ。
風が吹いたのを感じて大きく息を吸う。
「リボーンさんのばかやろー!」
「お前…勇気あるな」
「うえっ、あ…ああ、社長か」
「なんだよその反応」
睨みながら三咲の隣に立つ。なんだかんだ言って久しぶりに会った。しかも三咲はどうか知らないが綱吉からすれば一緒に住むことを断られた時以来だ。
「ディーノさんのとこで働いてたって」
「雲雀さんが仕事ないんだったらって勧めてくれたんです。社長が来るなって言うから」
「今は休み時間だろ」
「休み時間って言ったって勤務時間でしょう?」
「…三咲」
じっと見つめる。いつも通りの会話だ。こいつが秘書の仕事を雲雀さんから習って社長室で寛いで。仕事が終われば一緒に帰って。あの頃と変わらない態度だ。でも、なんか…
「なんかあった?」
「なんかもなにも、リボーンさんが」
「そうじゃなくて、リボーンに使われる前に」
「え、」
固まってしまう。リボーンに使われる前、ボンゴレ会社に着く前、昨日の夜。思い出さないようにしてたのに思い出してしまった。いや違う。考えないようにしてただけで頭の隅にはいつもあった。だって、そんなの、簡単に頭から抜けるワケがない。
気遣うように聞かれて涙腺が緩む。なんでここで泣いちゃうかな。じわじわと視界がぼやける。
「……正ちゃんに言われたときも我慢したのに」
「馬鹿。俺と正一くんでいつまで正一くん選んでんだよ」
ぎゅうっと抱きしめられる。もう駄目だった。堪えていた涙が出てきた。そうか、正ちゃんの前で泣かなくて綱吉さんの前で泣いたのは…
「つ、綱吉さ…」
「ん?」
「……ぐす」
「流石になんかあったなくらいは分かるくらいの仲だと思ってるけど?」
いつもないくらいの優しい声で言われる。うわああ、綱吉さんのスーツ濡らしちゃったかな。顔が見えるように離してもらうと「顔ひでえ」と笑われた。失礼な人だ。
「で、どうしたの」
「あの……ああ!」
なにか思い出したような大きい声に驚く。それから三咲は俺から離れるように手を振り払った。え、この状況でこれ?
「やば、もう5分経ってる!よけいあいつに酷いことされるじゃん!綱吉さんの馬鹿!教えてくれたっていいのに!」
俺を置いて走り出す三咲。ああ、そういうこと…って納得すると思うか!なんだあの女!いや、ああいう奴だって分かってたけど!流石にない!あれはない!
「久しぶりにムカついた…」
ああ、そうだ。あいつと俺喧嘩ばっかしてたことを忘れてた。