驚いた日
「ねえ正ちゃん。お腹空いた」
「知らないよ。ていうかなに普通に僕の家いるの」
「いいじゃんお隣さんなんだから」
「三咲が隣なんて五月蝿いだけだよ」
「正ちゃん私には結構冷たいよねー」
雑誌を読んでいる正ちゃんの背中に体重を預けて背中合わせになりながら会話をする。ホットケーキが食べたいって言ったら「フライパンならある」って答えが返ってきた。フライパンって焼くものがないと意味ないんだよ正ちゃん。
「ねえ正ちゃん、受かるかな」
「何に」
「ボンゴレカンパニーの面接」
「ボンゴレって大企業じゃん。そんなとこ受けたの?機械音痴な三咲が?」
「……なんか今嫌なこと思い出した。」
あの日会った意地悪な人と同じこと言ってる。別に仕事って機械使うだけじゃないじゃないか。例えば………お、お茶汲みとか?
「面接って何質問されたの?」
「…質問されてない」
「え、じゃあ何したの」
「……遅刻して間に合わなかった」
「へえ。……………………はあ!?何やってんの」
「あは、頑張って走ったんだけど…」
「もう受かってるわけないじゃん」
「…やっぱりか」
ガミガミと説教する正ちゃん。分かってる、さすがの私もそのぐらい分かってるよ。けどせっかく一次の書類審査は受かってたのに。まああれから間に合ってても受かってたかは分からないけど。ていうかたとえ面接してても99%落ちる気がするけど!でも1%ぐらい望みがあったのに!
「考えてたら泣きたくなってきた」
「馬鹿だね、三咲」
「……うー」
「…はぁ、ホットケーキはないけどタルトなら作ったのあるけど」
「いただきます」
タルトと聞いた途端急変した態度に正ちゃんは呆れた眼差しを私に向ける。パティシエ見習いだから凄く美味しいんだよね、正ちゃんのお菓子。
「あ、じゃあ私の家に紅茶セットあるから持ってくる!」
タルトを用意し始めた僕を見て、玄関へ走っていく三咲。数秒してまたガチャンと扉の音を響かせ戻ってきた。いくら隣でも早くない?とキッチンから玄関の方へ顔を覗かせるとどこで疲れたのかぜえぜえと息切れして俯いてる三咲の姿。手には紅茶セットではなく紙1枚を握っている。
「しょ、正ちゃん……ボンゴレカンパニー受かった!」
「……………………はい!?」
「どうしよう私ついに勝ち組」
「え、ちょ、面接してないんでしょ。ボンゴレそんなんでいいの!偽物じゃないのその手紙」
「いやいや本物だって」
「……三咲が入るせいで潰れるかもね」
「正ちゃん私には結構冷たいよねー」