追いかける日


「よし、今日も働くぞー」
「ディーノさん会社はいいんですか?仮にも社長でしょう?」
「こっちでだって店長だぜ?」
「そうですけど」
「出来の良い部下がたくさんいるんだ。下に任せるってのも仕事のうち」
「それにボンゴレと違ってウチは流通が専門。そこまで徹底的に忙しいわけじゃないんだ」
「………へ、へえ」

ディーノとロマーリオに説明されるがイマイチ分からない。適当に相槌を打つ。
朝のラッシュが終わった、お昼よりちょっと前のこの時間帯はお客さんもいなくてゆっくりできる。

「三咲ーミルクは?」
「今日はいらない」

カウンターの席に座りほのぼのしながらコーヒーの入ったカップに口をつける。ゆったり外の風景でも見ようと窓の方を向けば

ガシャンッ

「ど、どした?」

勢いよくカップを起きカウンターの中に戻った三咲はしゃがみ影に隠れた。
突然のことにディーノは混乱するがドアベルの音がして慌ててそっちを向く。

「いらっしゃ…ツナ!?」
「久しぶり。ディーノさん」

突然隠れた三咲にそういうことかと納得し苦笑いする。
綱吉は三咲がここで働いてることを知らない。知ったら毎日通うだろうから教えるなと雲雀に釘をさされた。あいつがそんなことを言うんだからきっとそうなんだろう。
ディーノにとっては弟分に毎日来てもらうのは嬉しい限りだが三咲はどうやら違うらしい。黙ってることにした。

「こんな時間に珍しいな」
「あはは、無理矢理抜けてきたんですよ」
「あ、いつものでいいか?」
「ありがとうございます…あれ」

ディーノと話しながらカウンターへ腰掛けた綱吉は飲みかけのコーヒーに気付く。まだ湯気が出ているしそう時間は経ってないはずだがいまは自分しかいない。

「これ」
「あ、ああ!それな、俺が飲んでたんだ。途中でカップ拭かないとって戻ったんだけどさ」

納得した様子の綱吉にディーノと三咲はふぅ、と息を吐いた。
なんとか綱吉が気付く前に隠れたもののピンチには変わりない。カウンターの中でしゃがんでいる私の目の前にはディーノさんの足。
少し離れて、ロマーリオさんも立っている。この状況でロマーリオさんがいてくれることが救いだ。

「リボーン帰ってきてるんだろ?」
「え、なんで」
「この前来たんだよ、アイツ」
「ああ……相変わらずしごかれてますよ。寝る暇もないっていうか」
「大変だな。こんなとこ来て大丈夫か?」
「なんか、最近コーヒーが恋しくて」

沈んだ顔の綱吉。疲れもあるだろうがこっちの意味もあるんじゃないか?とディーノは密かに足元にいる三咲に視線を動かす。

「俺、最近秘書雇ったんですよ。俺が選んだ秘書」
「ああ」
「ほんと変な成り行きで付き合うことになったんですけどとんだ出来損ないで…」

あ、怒ってる。

「お茶汲みだけは上手くてコーヒーとか毎日飲んでたんですけど、最近は事情があってリボーンいる間休んでるんでコーヒーも飲んでなくて」
「それで飲みに?」
「はい」

役立たずでもやっぱり必要なんですよね、あいつが。

眉を下げながら笑う。
ああ、ツナ。その「あいつ」今顔真っ赤だぞ。





「見えなくなった。もう出て大丈夫だぞ 」

その声にようやく立ち上がる。時計を見るとほんの10分程度だったことに驚く。じっとして息を潜めてただけだからもっと経ってる感覚だった。

「で、愛の告白されたけどどうすんだ?」
「…もう付き合ってますけど」
「そうじゃなくて。会社、戻らなくていいのかって話」
「え、」
「行きたいんだろ?」
「違います。ここで働くの勉強になるし楽しいし、私に合ってるし」
「じゃあ悔しいんだろ」

三咲の眉間に皺が寄る。それにディーノは呑気に「当たりだ」と笑った。

「お前だって毎日頑張ってたのにリボーンに認められないって決めつけられて」
「……別に」
「大丈夫、三咲はちゃんとやれるよ」

ぶすっとする三咲の頭をわしゃわしゃと掻き回す。手はそのままにディーノは顔を覗き込むように屈んだ。

「三咲をうちで働かせてくれって恭弥が電話してきた時、どんな子って聞いたんだよ。そしたら」

『負けず嫌い』

聞いてから恭弥のことだから仕事が出来るか出来ないかの基準で返ってくるな、って思ったんだけど違った。
あいつが言うんなら相当負けず嫌いなんだろうなってなんか面白かった。会ってなくても好感湧いた。

「……雲雀さんが」
「だから、リボーンにだって認められるよ」

そう言えば、三咲の目にやる気の色が入る。

「本当は一ヶ月じゃなくてこっちで雇わせてくれないか頼もうと思ってたんだけど、ツナにああ言われちゃあな」
「…からかってます?」
「まさか」

行くと頷いた三咲に「じゃあ応援のコーヒーでも」とロマーリオがディーノを促す。

「あーあ、こんなことなら正ちゃんもっと早く連れて来れば良かった」
「せっかく手放すんだ。負けんなよ」
「当然」

三咲はにっと笑った。


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