擦れ違う日


「は?」
「だから、一ヶ月給料無しのお前が可哀想だから一緒に住んであげてもいいよ、って言ってんの」
「……」
「…き、聞いてる?」

電話越しだが照れてるのが分かる。しかもどこまでいっても偉そうだ。だが内容はけっこう重要なものだ。一緒に住まないかと誘われている。一般的な恋人とはどこか違うような二人だが付き合ってるんだから別に住んだとしてもおかしくはない。綱吉の家は流石社長と言うべきかだだっ広く二人で住んだところでなんの支障もない。
だが三咲は彼の言葉に喜ぶどころかそれを聞いて半目になった。

「どうしてこの時間にかけてくるの」
「しょうがないだろ。朝しか暇じゃないんだから」
「あのですね、私は怒ってるんですよ。そっちの都合で秘書にされたと思ったら急に休みになったり…」
「だから誘ってんだろ?」
「金持ってたら全部なんとかなると思うなバーロー!」

言い切って電源ボタンを押す。久しぶりに電話が来たと思ったらこれだ。「知ったら通い出すかもしれないから」と雲雀さんに言われてディーノさんのところで働いてるのは秘密にしてある。だから綱吉さんなりに考えてくれたのかもしれないが金持ちの発想すぎてついていけない。
そう思っている三咲は恋人だから誘われているという発想はなく金持ちだから住まないか誘われているのだと思ってるところで変なすれ違いが起こっているのだがもちろん気付いてない。
三咲は気を取り直して時間までもう一眠りすることにした。






「あの女!酷くない!?こっちがどんだけあの言葉言うのに悩んだか分かってないんだ!三日掛けるか掛けないかで悩んで結局かけたらこれだよ!」

ガンッとデスクに頭をぶつける。愚痴を聞かされている雲雀ははぁ、と溜息を吐いた。
前にもこんなことあった。三咲が風邪で数日間休んでたときも三咲がいない!と喚いていた。けどあれは綱吉に熱があったからだと思っていたがどうやら違ったらしい。本人を目の前にすると喧嘩してるのにいないとデレるんだ。面倒臭い。
だが今回は綱吉の話を聞いてるのは自分だけじゃない。彼の元家庭教師もいる。ソファーで足を組み、コーヒーを飲みながら聞いていた。

「なんだ、愛人か?フられたのか」
「愛人は作らないって言ってるだろ。ていうかフられてないから」
「へえ、どんな女だ?」
「え?………夜は可愛い」
「それ、三咲が聞いたら朝よりもっと怒るんじゃない?」
「なんだ、雲雀会ったことあるのか?」
「……まあね。最近じゃ君よりも綱吉の側にいるし」

何気なくフォローする。会ったことあるどころか毎日のように会ってた相手だ。

「で、喧嘩してんのか。面白そうな展開だな」
「面白くないから。ていうかのんびり話してる暇あったら早く帰れよ!」
「せっかく日本に帰って来たんだから色々遊ばないとな」
「駄目だ…三咲……会いた…くない。あの女調子に乗りやがって」
「ねえ僕帰って良い?」

情緒不安定な社長と自由気ままな家庭教師。この二人から逃げるように雲雀はそそくさと一人仕事に戻った。


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