馬鹿にされた日



「まずい、迷った。」


焦りながら周りを見渡す。左も右も忙しそうな人ばかり。助けてくれそうな人なんか誰もいない。どうしようマジで。


ここは有名企業ボンゴレカンパニーの1階。見るからにお金持ってそうな社長さんらしき人達が秘書を連れて歩いてる。
平凡な私がなんでこんな縁がないような所にいるのかというと今日はこのボンゴレカンパニーの面接試験の日。私はそれを受けるために来たのだ。
理由は簡単、給料が良いから。ここで働いてたら出来る人みたいで格好良くね?なーんて軽い考えで来てみればこれだ。会社が広すぎてどこが面接会場だか分からない。インフォメーションの隣に大きく書いてある「面接会場B塔」の文字。B塔ってどこだよ。ていうか集合時間まであと10分もないんだけど間に合うのこれ!ていうか間に合ったとしてもこんなとこ受かる気しないけどね!



「ねえ」
「ひぇ…あ、はい」
「こんなとこで何してんの」


いきなり話しかけてこられたのはすらっとした格好良いお兄さん。黒い滅茶苦茶高そうなコートを着こなしていらっしゃる。この会社に交渉に来た人…かな。

「えっと…ここの会社に面接に来て迷っちゃったんです」
「はっ馬鹿じゃねえの」
「な…ちょ、なんですかいきなり馬鹿って」
「普通そんな大事な時は調べてから来るだろ」
「いいじゃないですか。私機械オンチなんですよ」
「そんなんでここの面接受けに来たんだ」
「うっ……。う、うるさいなあ」


ちょ、なにこの人!こんな初対面で人に馬鹿にされたの初めてなんだけど!しかも全部本当のことだから反論出来ないのがムかつく。
格好良いとか思っちゃった自分が悔しい。中身めっちゃいじわるじゃんか。



「で、いいの?面接」
「あ…!……あ、あのう、B塔ってどこか分かりますか?」
「……確か、あっち」


なんとか思い出したという様に指をさす。やっぱり。きっと何回も交渉をしにここへ来る契約している会社の人なんだろう。場所を覚えてるくらいだからお得意さんなのかも。社長にしてはまだ若いし、それに近い人…なのかな。こんなに意地悪な奴なのに。神様って不公平。私なんて金無い時三食ご飯一杯だけなんだぞなめんなよこんにゃろう。
…けど場所を教えてもらったし、ちゃんとお礼は言わないと。ていうかお得意さんなら礼儀正しくしないと駄目かも!私は頭を下げてきちんとお礼をした。


「ありがとうございます」
「ねえ」
「へ?」
「あんた名前は?」
「三咲です」
「ふぅん」
「…あんた人の話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」


しまった、礼儀正しくとか思いながらつい言ってしまった。でもこの人の態度絶対聞いてないだろ…!私の問いに男の人は吃驚した顔をして少し間が空いてからその答えを待ってたとばかりに笑顔で答えた。



「ていうか早く行ったら?せっかく俺が場所教えてやったんだから」
「………そうですね。あなたといても私が疲れそうなんでもう行きます。さようなら」

どこまでも偉そうな人だ。またムカッと来ちゃったよ、危ない危ない。私は最高級の作り笑いを彼に向けてB塔へ走った。残り5分、全力疾走。

だからあの人がこっちを見ながら呟いた言葉なんて当然聞こえなかった。


「……三咲、ね。」








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