泣きたい日





「…なにこれ」
「恋人らしいこと、です」


パソコンのキーボードを打つ作業を終え伸びをすると終了したことに気付いたのか三咲は前に立ちはい、とラッピングされた袋を差し出した。
どうだとでも言いそうな満足気な顔でこっちを見ている。


「手作りです」
「……なるほど」


てっきり三咲は行動でくると思ってたけど違ったらしい。モノでくるとは予想外だった。まあ手作りは行動にも入るけど…。ていうか本当に考えてくるとは思わなかった。


「友達に聞いて作ったんです。男だってお菓子に弱いことを確認するべく一晩で作りました」
「そ、そうなんだ。」


綱吉は袋を受け取りリボンを解いていく。袋が開き中身を覗くとなぜかうっ、と小さく唸り固まってしまった。


「社長?」
「クッキー………嫌い」


その場の空気が凍る。
冷や汗をかく社長と固まる秘書の図は端から見ればシュールだろう。


「―――ご、ごめん」


沈黙に耐えられず謝ると無表情だった三咲は僅かに笑みを浮かべ口を開いた。


「好き嫌いは駄目ですよ」
「いや…うん」
「嫌いなクッキーを克服する良い機会です」


社長椅子に座ったままの俺の膝の上に乗りクッキーを取り出した三咲。これは強引に食べさせられるパターンだ。あーんなんてレベルじゃなく。むしろ悪意を込められる気がする。
悪戯する子供みたいで滅茶苦茶楽しそうにしてるが後ろには冷気が漂ってる。
この体勢だけ考えるなら俺も楽しいシチュエーションだが。


「私のクッキーを食べるがいい!」


ぐい、と勢い良くクッキーを口に入れられる。
この嬉しい体勢に意識が集中してた俺は三咲がお茶汲み以外は使えないドジだということをすっかり忘れていた。
王道の塩と砂糖を入れ間違えられていて(しかも大量に)クッキーのことが嫌いからトラウマにさえなったことは言うまでもない。




泣きたい日




―――――


「もしもし正ちゃん?恋人らしいことってなんだと思う?」
『いきなりすぎて話が見えないのはいつものことだからスルーするよ。お菓子作りとかじゃない?』
「スルーするって言いつつ答えてくれる正ちゃんが好き。…って、お菓子作りは正ちゃん限定でしょ!」
『そんなことないよ。男だってお菓子は好きだから。好きな子に貰ったら嬉しいに決まってるから』
「成る程……正ちゃんは同じ学校の子から手作りが欲しいと」
『―――え、ちょ、なに言ってんの!』
「へっへーん私知ってんだからね。正ちゃんの机の右の引き出しに女の子の写真が」
『あーあーあー!』
「私応援するねーなんなら協力もしたげる」
『上から目線にイラっとくる』



「……じゃあ分かった。男は本当にお菓子を喜ぶか実験もかねて作ってみる。ありがと」
『砂糖と塩間違えてないでよ』
「どんだけ私をドジだと思ってんの」
『宇宙一』
「…………」




あとがき―――――
入江くんのとこはおまけなんですがおまけのクセに長い。これでも半分くらい減らしました←


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