「今時ナンセンスだよ、お互いの利益のために結婚なんてさ」
「…お前、つい三日前に政略結婚バンザイとか言ってなかったか」

イスに座りキィ、と音をたてながら話す及川。岩泉はまた意見が変わったとげんなりする。こいつがころころと意見を変えることは珍しくない。しかし、ファミリーのボスである以上発言には責任を持って欲しい。こっちが振り回されて終わるだけだ。
断るだろうと踏んでいたが予想外に了承した政略結婚の申し出。驚きながらも岩泉たち部下はそれの準備を始めだしていた。
一度了承してから断るのは相手方をどれだけ怒らせるか。初めからその気にさせて断るつもりだったろうと激怒するかもしれない。

「そりゃ、相手だって打算の結婚だし、籍さえあれば俺が遊んでても帰っても許してくれるでしょ?」
「おい」
「今の彼女と別れる気ないし、愛人はいたっていいでしょ。もちろん身バレはしないから」
「…」
「いいじゃんこのくらい。俺はここから逃げられないんだよ」
「ここ?」

意図が分からず岩泉が聞き返す。だが及川はにこりと微笑んで答えはしなかった。
はぐらかすかのように話を逸らした。

「でもさ、一般人の可愛い女の子と結婚してもこっちの顔知られたら俺に可愛い顔してくれないじゃん?きっと」
「…そうかもな」
「こっち側の俺を許容してくれたとしても玲華ちゃんに冷たくしそうだし」
「…どうしてそんなにあの女に気遣ってるんだ?」

別に冷たくしようがいいじゃねぇか、と言えば信じられないという目で見られた。
及川ははぁー、とあからさまな溜息をつき首を振る。

「岩ちゃん、女の子には優しくしなきゃ駄目だって。女の嫉妬は恐ろしいんだよ?ましてや玲華ちゃんはあの状況なんだし」
「お前があの状況にしたんだろうが」
「まあねっ」

したり顔をする及川に今度は岩泉が溜息を吐いた。

「てか、どうするんだよ。いま普通の女もイヤとか言ったよな。俺は一応、お前の意思を尊重する。けど結婚しないってのはナシだ」
「分かってるよ」

ファミリーのボスとして、後継者というのは大切だ。呑気にしていたら敵に攻められる恐れもあるし引き継ぎにだって時間がかかる。早いにこしたことはないのだ。及川はまたキィ、と音をたてた。

「うーん、玲華ちゃんとでも結婚しようかなあ。」
「はあ!?」
「こっち側の及川さん分かってくれるし、からかい甲斐もあるし。玲華ちゃん可愛いでしょ?どうせずっとここにいるなら俺しか貰い手なくない?」
「……」
「……冗談だってー。そんな顔しないでよ」

笑う及川に安堵する。長年の付き合いだが本気で言ってるように見えてしまった。時々、コイツが分からない。
安堵したからか、こちらも軽い空気で答える。

「どっちかというと、あいつは綺麗のが合ってるんじゃ」
「そーだね、って…ええええ!?岩ちゃんが女の子の系統を!!どうしたの!天変地異!?」
「だーっ…うっせえ」
「まさか岩ちゃん貰い手の座狙って!?」
「ちげーよ。思ったことぽんと言ったんだよ」
「それがすごいことなんだって…」

予想外に食い付く及川。変なこと言っちまったと後悔する。ファミリーのボスと部下ではなく友人同士のノリで話したからだろうか。
目を丸く開いて声を荒げる及川に岩泉は呆れた。
ほんとウザいのは昔から変わっちゃいねえ。

「玲華ちゃん!岩ちゃんには気をつけてよ!命の危険って意味じゃなくて!」
「…は?」

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