及川と共に会場を出た玲華。そのまま彼の外車に乗せられる。後部座席の右側に座る。左に及川が続いて乗り込む。運転手が車を発進させる。そのまま無言。頬杖をつき窓を眺めている及川。
セキュリティざらじゃないか?走り続けているがばっとドアを開き転がり逃げることも出来るはずだ。ドレスなせいで上手く走れないし、その前に大怪我するかもしれないが死ぬよりマシだ。…やるか。

「玲華ちゃん」
「な、なんですか」
「内側から開けられないように出来ること、知ってるよね?」
「…だったら?」
「急にそわそわし始めたから、飛び出そうと考えてるんじゃないかと思って」
「っ、そんなこと」

微笑まれ目を反らす。窓の外を見ていると思わせて、窓に映った玲華を見ていたのだ。油断させ、相手を観察する。なんて性格悪い。逃げられない。さっきのボディーガードとは違う、体術ではない強さを感じる。

「そんなに固くならないでさ、もう少し楽にしててよ」
「この状況でどう楽にしろと」
「えー?じゃあこう?」

距離を詰める。片手を伸ばし玲華を引き寄せた。

「どう?落ち着いた?」
「…貴方が女性の扱い方をよく知っていることが分かりました。流石ですね。でも私は別に」
「うーん、クールだねえ。恥じらってくれるかと思ったのに」
「私は別に」
「…」

突っぱねるが引き寄せた手はそのまま。「玲華ちゃんはさあ」と話モードに入る。沈黙はやめたらしい。

「男がボコられてるのに止めようとしたり、ナイフを出されても叫びもしない。俺のこと知ってもすぐに受け入れた」
「…」
「加えて俺とこんなにいちゃいちゃしてるのに動じない」
「いちゃいちゃしてませんけど」
「ほらー、それ!それだよ!あのパーティーにいるってことは相当な家柄の子でしょ?それにしては動揺しなさすぎ。肝が据わりすぎ」

つまんなーい、と息を吐く及川。

「俺のホームって言ってましたよね。ファミリーで一番上なんですか」
「そうだよ。俺のファミリー」
「……これから殺されるのに、ときめきなんか感じませんよ」
「え?殺す?」
「…及川さん直々にではなくても、『ホーム』に着いたら私は死ぬんでしょう?」
「玲華ちゃん殺さないけど」
「は?」
「もう、さっきも言ったでしょ?あのナイフ男だって殺してないし。…ファミリーってそういうイメージあるのかもしれないけど俺のとこは違うから」
「…じゃあ、ホームへ連れて私をどうするんです?」
「どうしようね?」

混乱する玲華。ようやく見せた様子に及川は満足したように笑った。

「あれ以上あの場にいたら岩ちゃんになに言われるか分からなかったから強引に連れてきたわけさ。女の子を危険に巻き込むのは及川さんとしては心苦しいし。結果君が助けようとした男に救われたんだよ、玲華ちゃんは」
「…」

ちょっと泣きそうになる。なにがしたいんだろうこの人は。今の言葉に少し落ち着いてしまった。ずっと気を張っていたからか一瞬でも安心すると雪崩れてしまう。優しい声音と、密着した体温にも。
けど、信頼するわけにはいかない。殺すつもりはないなんていつでも言える。常に状況は変わっていないのだ。何の力も持たない私と、ファミリーのボス。

「そうだ、じゃあ専用部屋作ろうか」
「…はい?」

腰の手はそのままに、もう片方の手で玲華の頬を覆う。
その目つきは今までのものではなく、艶めかしい大人の目つき。目をそらせばすぐ喰われそうだった。

「君は足を失った人魚姫。どっちかといえば命を助けたのは俺の方だけどね。声は失ってないけど、王子様に会いに来た。王子様の俺はお城に案内する」
「……」
「現実をすんなり受け止める君のために言っておくと、誘拐っていうのかな。命は取らない。ホームの中でなら自由に過ごして。でも、一生このままだ。秘密を知られちゃったからね」
「幽閉、ですか」

一生、という言葉が多く響く。やっぱりそうだ。絶対そんなつもりない。ファミリーのことを知られたから攫ったくせにホームの中でなら自由に過ごしてなんて言う人はいない。私がその立場でもそうだ。
目を見ても、どこまで信頼していいのか分からない。本心が見えない。雪崩れた緊張がもう一度、膜を張るように纏わり始めた。

「鳥籠の中の鳥とどっちがいい?人魚姫と小鳥さん」
「…及川さんってかなりメルヘンですね」
「ちょ、俺が寒いみたいなのやめて!」

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