「クソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして、正々堂々叩き潰したいんだからサ」

練習試合が終わり、正門へ向かうと及川が待っていた。びしっと影山を指差す及川。烏野からもピリピリした空気が流れる。レシーブがまだまだと指摘されても、練習していくしかない。手っ取り早く上手くなる方法なんてない。

「大丈夫ですよ、全員本気だから」
「…そうみたいだね。楽しみにしてる」

それを合図に及川は話は終わりだ、と烏野から視線を外し歩き始める。歩いて、数歩。勢いよく振り返った。
まだ及川を目で追っていた一同は同時にビクッとする。

「ヒィッ」
「おい日向!びびってんじゃねーよ」
「び、びびってねーし!お前だってそうだろ」
「俺はびびってねーよ」
「お前らうるさいぞ!」
「春…ちゃん…?」
「……お久しぶりです。オイカワサン」

あえてにっこりと微笑んでみる。及川さんは目を見開き、固まってしまった。何を言えばいいのか、どう対応するのが正解なのか迷っているようだ。

「あ、そうか…宝生は北川第一だもんな」
「優男と知り合いなのか」
「まあ、はい」
「春加さんが『女王様』って呼ばれてたの、及川さんのせいです。
「王様と大王様と女王様…」
「バラエティに富んでるねえ」

言葉を詰まらせながら必死に声を出すように及川は口を開いた。
焦っているのを感じる。

「どうして、そこにいるの」

ふっと冷たく向けられる視線。及川の今までと違う空気にみんなぽかんとする。約3年間。私は避けていたのだ。バレーボールから。及川徹から。
自分も言葉に詰まらせていることに気付いた。久しぶりに見る及川さんに心臓が早くなる。少し息苦しい。


「…バレーボール。やっぱり好きだし、我慢の限界」
「…」
「烏野のマネージャーになりました」
「う、ん」
「私がこれから尽くすのは烏野」
「……」

すっ、と及川の表情がなくなる。しかしそれは一瞬ですぐに笑みを浮かべた。
笑みを浮かべたまま怒りが読める。

「そう。それじゃ余計に潰さなくちゃね。トビオちゃんと春ちゃんが同じ学校、部活なんて冗談じゃない」
「出来るもんなら」
「!先輩」

澤村は及川の視線から守るように前に一歩出る。主将の代名詞といえるくらい堂々としている。主将が強気なだけで、周りが、日向さえも強気でいられる。

「…主将はレシーブのことも分かってるみたいだし、楽しみにしとくよ


及川は頷いた。本気で笑ってないこと誰が見ても明らかだった。
ああそれと、とポケットから携帯を取り出した。

なにをするのかと全員で見つめていると目が合った。さっきとは違う笑みでにっこりと微笑まれる。
やばい。本能的に後ずさる。なんだなんだ、やばい気しかしない。
みんなも察知したのか身構える。なんのつもりーーー

「春ちゃん連絡先変えたでしょ。もっかい教えて」
「……」
「……」
「……」

全員一気に半目になる。多分私も同じだ。
にっこりと笑ってるのは及川だけ。その顔、すごい、むかつく。春加は一言言って、そそくさと帰りのバスへ向かった。

「あんたに教える連絡先はない」


大王様と女王
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