「っすごい…」

お世辞なんかではもちろんない。最初は日向が緊張して一セット取られたけど青葉城西に、一セット取り返そうとしている。あと二点だ。よく分からないが青城に彼がいないとしても、一年生が三人入ったこの新しいチームでここまでやるのは凄いことだ。思わずベンチから腰を浮かせる。立ち上がる。

「大地さんは本気ですよね、全国に行くって」
「…澤村だけじゃない。みんなそうだよ」

烏野に目を奪われている春加に微笑みながら答える。すごいのはこれだけじゃない。
影山がトスをあげた瞬間、日向がスパイクを打っていた。

「…これ、」

この速攻さっきから目が追いつかない。日向のジャンプ力がすごいのは知ったけどどうして今跳んでたの?影山も、どういうモーションで跳ぶって分かるの?まぐれかとも思ったけど、みんな当たり前のように「よくやった」とか声を掛け合っている。つまり、まぐれではない。意図的だ。

「本当にすごいっ…なんなんですかあれ!!!」
「全国はみんなの夢だし、私の夢」
「、潔子さん」

同じく立ち上がった潔子さんが微笑む。もう一度、烏野を見る。まだ少ししか彼らを見てないけど、それでも一生懸命に練習してるとことか、仲間を思いやってるところとか、楽しそうにしてるところとか、見てきて思った。

「私の夢にもなりました!全国!!」

二セット目を終えて、戻ってきた澤村たち。ぱちくりと、瞬きする。きょとんとした顔から一変、にやりと笑った。

「そうこなくっちゃ」
「夢っつーか、行くべ」
「行きましょう!ぜんこぶっ…いてぇ!」
「お前はまずレシーブを練習しろ!」

わらわらと汗を拭きながら話す烏野。良いチームだな。自然と笑顔になる。ああ、一年勿体無いことしたな。すぐ吹っ切ってバレー部入ってれば良かった。そう思えるくらい良いチームだ。
速攻が決まったあとの二人の本気で嬉しそうな顔。あんな顔が見れるなら、もう理由はなにもいらない。
さっきからジワジワと、バレーボールが好きで好きで仕方がなかった時の感覚が蘇ってくる。うずうずする。


さあ三セット目だ。

「油断ダメです」

みんなも盛り上がった中、影山が呟いた。ジワジワと春加の身体を襲っていた興奮が鎮火されたように萎んでいく。そうだ。そうだった。

「相手のセッター多分ですけど、正セッターじゃないです」

影山が言った矢先、ギャラリーから歓声があがった。女子ばかりの声。聞き慣れた、この感じ。

「来た」
「え?」

春加は静かに深呼吸をした。約3年ぶりだろうか。緊張なのかなんなのか、少し気持ち悪くなる。そっと、青城側のコートを見た。

「やっほートビオちゃん、元気に王様やってる?」

歓声に軽く答えてから、彼は影山に笑顔で手を振る。成長はしてるが、変わってないと分かる。が、
「え、足…」
「怪我みたいですね。でもアップしてから参加するみたいですよ」
「……」
「宝生さん?」
「あ、いえ。なんでもないです」

笑ってごまかす。
今はしっかりみんなを見ていないと。ネットのこっち側はもれなく味方、なんだから。
ふと、青城からの視線を感じる。見てしまって後悔する。岩泉さんがこちらをじっと見ていた。言いたいことが伝わってきて、思わず苦笑いを浮かべた。

及川徹
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