ぐにゃり

視界がゆがむ。手をおでこにあてて重い頭を支える。倒れはしないが動き回るのは辛い。3クラス合同の体育の時間。ちょうど先生たちが話し込んでいて生徒もふざけ合ったり話してたりと、実質自由時間だ。これなら一人抜けてもバレないだろうと集団からそっと離れ体育館を出た。
外の空気を吸って少し開放感を得る。体育館の脇というのは人通りはなく静かだ。校庭で体育しているクラスはあるみたいだが距離が離れている。座って小さくなっていれば気付かれないだろう。

「まだふらふらする…」

体育座りをしてひざに顎を乗せて目を瞑る。風が心地いい。授業が終わるまでいるのはまずいよなー。でもしばらくは立ち上がるのも億劫だ。
少し休憩していると、ふとなにか気配を感じた。しかし話しかけられることもないそれに先生に見つかったわけではなさそうだ。
そっと目を開ける。
すると驚くほどの至近距離で及川さんの顔が目の前にあった。声にならないが勢いよく後ろに顔を仰け反る。

「…お、及川さん…!」
「やっほーなにしてるの?こんなとこで!転入して間もなくおサボり?意外とやるねー春加ちゃん」
さわやかな笑顔を浮かべて話す及川さん。体操服を着てるあたり校庭で体育していたのは及川さんたちのクラスだったのだろう。貴方もサボりなのでは?という疑問は驚いている春加の思考にはなく。人間驚くと声が出ないとは本当だったのだと実感していた。

「サボりっていうか…サボりではあるんですけど」
「ちょうど体育館から女の子が出てくるとこ見つけてさ。保健室行くでもなく座り込んだから大丈夫かなって思って」
「…あ、すみません。ご心配おかけして」
「具合悪い?」
「ちょっと。ふらふらして」
「水いる?持ってこようか」
「大丈夫です」

先輩が立ってるのに自分が座ってるのはまずいかと立とうとすると止められる。心配して様子を見に来てくれるなんて、なんて良い人なんだ。初対面がああじゃなかったら顔も心もイケメンと絶賛していただろう。助けていただいてばっかりなのにこんなこと思うのは酷い話だが第一印象というものは大きい。
春加が対応に困ってると思ったのか及川は春加の隣に座った。ただ自分もサボりたかっただけかもしれないが。

「いつもは元気みたいだけど、体弱いの?」
「えっ、いえ。たまたまですよ」
「じゃあオレは春加ちゃんのたまたまの日に居合わせちゃうんだね」
「……ああ、確かに」

初めて会ったとき。及川さんからすれば私の印象は「病弱な女子」だろう。実際今日も出くわせたのだ。そう思うのは納得できる。通常運転なら風邪もあまりひかない方である春加はその差に笑ってしまう。
最近は体調崩しまくりであるが。

「…精神的に思い詰めると体調に出るタイプみたいで」
「なにか悩み事?あるなら相談のるけど」
「いえ、引っ越してまだ慣れがないだけだと思うんで。ご心配ありがとうございます」

道を聞いた日も保健室で会った日も、具合が悪かった。ストレスからきたものだと思うし家族も保健の先生もそうだろうと言っていた。
自分がこんなに慣れない環境に左右されるとは思っていなかったがこの年頃では仕方がないことらしい。解決には慣れしかない。家も学校も景色も気温も。一日一日を過ごしていくしかないのだ。別にここが嫌いというわけではないから、重く受け止めてはいない。ただ具合が悪くなるのはもうちょっとなんとかならないかなーとは思うが。

「なーんかよそよそしいよなあ春ちゃん」
「…春、ちゃん」
「かわいいでしょ?あだ名〜」
「はじめて言われました」
「春ちゃんって、可愛いと思うよ」
「…はあ。どうも」

きょとん、としながら答えられ苦笑いが浮かぶ。テンション低っ!具合悪いから仕方ないのかもだけど話してるうちに顔色が良くなってきたから安心して気分をあげてくれればと思ったのに、失敗したかも。なんでっ。
心の中で焦る。結構良いシチュエーションじゃない?具合が悪いの見つけて心配するイケメンの先輩!
岩泉がいたら蹴っ飛ばされそうなことを考えながら春ちゃんって呼ぶタイミング失敗したなあ、と少し落ち込んだ。

「先生に話してしばらく見学にしてもらったら?話難かったらオレが先生に言ってもいいし」
「体動かすのは好きなんで…体育はでたい」
「ああ、バレー好きだもんね」
「基本は活躍できる人間なんです。体育は」
「勉強は?」
「……ふつう?」
「へー。春ちゃん頭良さそう。前期のテストってどうだったの?まあ、前の学校の話だろうけど」
「……学年6位です」
「めっちゃ頭いいじゃん!!!裏切者!!!」
「頭良いですなんて言えないじゃないですか普通!」
「頭良い子は頭良いって公言した方がオレは好きだね。だから及川さんはバレーが上手いということを公言してる」
「それは…最高ですね」

及川さんの独特の考えに思わず笑みがこぼれる。確かに。それは最高だ。
笑うと及川さんは面食らった顔をする。

「あ、ごめんなさい。別に馬鹿にして笑ったんじゃないですよ」
「あ、いや、うん」
「その考えは最高だなって、思いました」

フォローを入れても口数少なくなる及川さん。でも気を悪くした様でもないらしい。
黙り込んだまま立ち上がってポケットに手を突っ込む。

「……はい、元気ない可愛い後輩ちゃんにはアメあげる」
「ありがとうございます。…いつのですか」
「今日買ったやつ!体操着に入れてたからって汚くはないから!」

「じゃあ、そろそろ戻るよ。オレがいないとすぐバレちゃうし」

あまり無理しないよーに!と言う及川さんに春加は頷く。「キャンディいただきます」ともう一度お礼を言った。

「……球技大会、もうすぐだけど出れないなら応援きてね。まあ実行委員の仕事で会うだろうけど。てか、部活も早く来てよね」
「あっそうでした!行かせていただきます」
「…じゃあね、春ちゃん」

今度こそ去ろうとした時、及川さん、と呼ばれて立ち止まる。きた。及川には女子からの告白はよくあることだ。込み上げる笑みを出さないようにして、振り返る。


「なに?」
「球技大会は私何が何でも出るって決めてるので。応援は行けません」
「あっハイ」


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