「すみません。道聞きたいんですけど」
「道?いーよ。どこ行きたいの?……これくらいいいでしょ」
「私の言うこと聞こうとしないんだ」
「それとこれとは違うじゃん。ただ道聞かれただけなんだからさ」
「…あの、迷惑なら大丈夫です」
「あ、違くてさ」
「帰る」
「そう。勝手にすれば?」
「…っ、もう徹なんか知らない!!」

しくった。
春加は聞く人を間違えたと激しく後悔した。





中学一年生の夏直前。
新しい生活に慣れてきた頃。夏休みもあと一カ月という浮かれる季節。
一般にはそうだろう。
二日前に宮城へ引っ越してきた春加は全く慣れも浮かれもしなかった。すごい時期の転校だったが親の仕事の関係だったため仕方がない。まだ仲の良い友達が出来たわけでもなかったし。しかし精神的に疲れる。
住宅街はまあどこも同じような感じだけどどこの店に行くのも距離がある。電気店はどこだ。白の電球だけだと落ち着かない。広配光タイプが欲しい。携帯で地図を見ながら位置を確認する。暑い。もう夏じゃないこれ。
学校は明日から。北川第一中学校。校門の外から見たが普通の学校だ。
たったの数か月過ごした中学よりこっち過ごす方が長いんだからこれからが本番といえるだろう。中途半端にグループが出来てるだろうし。今から仲良くなってもすぐ夏休みだし、大変だろう。ああ、嫌だ。

春加は歩きながら憂鬱になった。それを暑さのせいにする。
ていうか、本当にどこだ。中々着かない。これもう人に聞いた方が早いんじゃないか。
あたりを見渡すが昼前の住宅街に人通りはない。もう少しすれば人通りも増えるんだろうが、見当たらあない。運がないなと思いつつ進むとおそらく中学生の男女が反対側から歩いてきた。すっごい話しかけずらいけど背に腹は変えられない。春加は「すみません、」と声をかけた。
そして、冒頭に至る。



引き返していく彼女を焦った様子もなく見送る彼氏。え、修羅場。
元から険しい空気だったみたいだが春加が話しかけたせいで引き金を引いてしまった。数十秒前の自分を恨んだ。もうちょっと相手の空気を見てからにすれば良かった。

「あのすみません!追いかけてください!」
「いいのいいの。道分からないんでしょ?」
「いや、彼女さん行っちゃったじゃないですか。一大事ですよ!」
「どうせ、こうなるって分かってたし。道聞いたくらいで嫉妬するとか重くない?」
「はあ…」

確かに、顔が良いと誰もが思う顔をしている。女子の人気は凄そうだ。元から我慢の限界が近かったのかもしれない。道を聞いた私も、この人を見て話しかけたと勘違いしたのだろう。
確かに面倒臭い。イケメンならではの悩みだろう。

「で、どこ行く予定なの?」
「えと、電気店に」
「あっち。もしかして引っ越してきたとか?」
「はい。地図みてもイマイチ分からなくて」
「同じような景色だしねぇ、案内するよ」
「えっいや、いいです!」
「でも」
「まだ彼女さん近くにいると思いますよ。待ってると思います。そんな時に一緒にいるの見られたらそれこそ本当に修復不可能ですし、よりを戻さないとしても面倒なことになるのは間違いないですよ」
「…あー確かに」

春加の話を聞いて苦笑いを浮かべる。地図を見ながら道だけ教えてもらう。
最初は修羅場に遭遇してしまったためびびったが後は親切だった。

「じゃあお詫びに飲み物でも奢らせて」
「え?私が買います!お礼に」
「変なことに巻き込んじゃったしさ」
「でも私のせいでもあるし」
「むしろ君のおかげって言いたい」
「…結構性格悪いですね」
「そう?あ、俺及川徹ね」
「宝生春加です」

笑顔の及川さん。あれけっこうチャラい…。これはこの人にも原因があるんじゃないだろうかと密かに思う。

「じゃあ自販機のコーラでいい?なんか暑そうだし」
「確かに暑いですけど、及川さんだって」
「いや、なんか失礼かもしれないけど顔色悪いし辛そう」
「……ちょっと陽にあたりすぎました」
「けっこう迷ってた?」
「はい」
「じゃあ缶のお茶がいいかもね。缶だと冷やすのにも使えるし。ちょっと待ってて」

走って脇の自販機に走る及川さん。初対面で迷惑をかけてしまった。
性格悪いとか言って失礼なことをしてしまった。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「これはもう案内するよ。ちょっと休んだら着いていくよ。それとももう帰る?」
「…いえ、買いに行きます。でも大丈夫。迷惑かけてすみません」
「そっか。気にしないで」

確かにこれはモテる。私の理想ではないけど。
春加はお茶を受け取り一緒に一休みした。
それが、最初。


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