常波戦
「大王様!」
「げ、」
日向の声に春加は客席側へ振り向く。及川と岩泉が来ていた。コートに向かってピースしている。しまった。思わず声が出てしまった。注目している学校の観戦は珍しくない。変人速攻を知っている青城だからこそ、烏野を見に来たのだろう。
「春ちゃん、久しぶりだね。今げ、って言ったでしょ」
「ついこの前来ましたよね」
「お前…まだ烏野に通ってるのかよ。練習終わったら休めって言ってんだろ」
「えーだって。これからしばらく会いに行けないだろうから充電したいじゃん」
「…さっき外で何してたか言ってやろうか」
「ヤメテッ」
「どうせ他校の女子たちに囲まれて楽しくお話してたんでしょう」
「…」
何の話だかすぐに気付いた春加に流石だなと岩泉は思う。にっこり笑う春加に言葉に詰まる及川。何回公式戦をしてもいつもこうだ。反省をしないなと呆れる。付き合ってないんだから咎めることもないのだろうが。春加に本気ならこういう態度はいけないだろうに。わざわざ烏野まで会いに行くことをしてるのに。本当こいつは…
「ダメダメだな」
「えっ岩ちゃんいま俺のこと言った?」
「他に誰がいる」
「ひどい!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ及川に春加は「うるさい!」と背中を殴る。「いたっ」と声を出したがなんか嬉しそうだ。岩泉は死んだ目になった。
「今から烏野の試合なの。早くどこか座って」
「ああ、スマン」
「ちぇ、飛雄を応援なんて」
「いいから行くぞグズ川」
ぶつぶつ言う及川を引っ張って座らせる。
まだ試合は始まってないがコートから視線を外さない春加に及川は不機嫌になる。
「ふーん」
「ふーんじゃねえよ。宝生は応援してんだろーが」
「昔はあの視線の先は俺だったのに」
「…」
「あの子烏野には俺と付き合ってたって知られたくないみたい」
「ふうん」
「嫌われてるかと思いきやそうでもない態度だったりするし、春加ってよく分からないよね」
「…昔からだろ」
答えにくい話題になんとか返すと及川は少し黙ったあと「そうかも」と笑った