「おはようございます」
「………」
「ちょっと。先輩が挨拶してるんだけど?月島くん」
「大丈夫ですか。顔色悪いですけど」
「平気」

寝不足が連続したためか、疲労のピークか、両方のせいか、朝起きたら具合がめちゃくちゃ悪かった。
朝の月島くんから始まり、授業中も先生に保健室に行けと促されたり。こんなとこで挫けるわけにはいかないと突っぱねた結果放課後にはふらふらだった。
田中さんが止めるが一緒に体育館へ行く。けど大地さんに捕まった。

「もし風邪ならみんなにもうつるし、なによりそんな血の気引いた顔で仕事をさせられないよ。やる気あるのは嬉しいけどね。今日は帰りな」
「…はい。すみません」
「一人で帰れるか?」
「大丈夫でさ」
「でさって。本当に大丈夫か」
「はいー。宝生春加帰りますー」

付き添いとか余計に迷惑をかけてしまう。これ以上かけたら私が罪悪感で死ぬ。無理矢理走って体育館を出た。
けどやばい。ふらふらする。寒気もしてきた。大地さんの言う通り風邪かなぁ。しばらくして蹲った。こんなんなら保健室で寝とけば良かったな。

「やっほーお嬢さん。迷子かな?」
「………」
「うわあ嘘ウソ!睨まないで」
「なんでいるんですか。及川さん」

呆れながら及川さんを見上げる。ちらりと腕時計を見る。思ってたよりも長く蹲ってたらしい。早く帰れば後悔した。「そりゃ、春ちゃんに会いにね」と微笑って答える。こんな時になんで会うんだ。

「具合悪いの?立てない?」
「…平気」
「平気な子がこんなとこでじっとしてる訳ないでしょ。俺に遠慮したって意味ないよ」

同じようにしゃがみ背中をさすってくれる。吐き気はないから平気だと伝えると「あっちに公園あるから座れるとこ探そう」と優しく言われる。

「薬持ってる?」
「頭痛薬なら」
「んじゃ、とりあえず飲んじゃおう。水買ってくるね」

自販機でペットボトルの水を買ってきて春加に差し出し、隣に座る。
お礼を言って春加は薬を飲んだ。

「会いたくないときに来るんですね、及川さんって」
「えー逆でしょ?会いたいときに会いに来れちゃう格好良い俺」
「帰っていいです」
「ごめんって!」

「なーんてね。嘘だよ」
「は?」
「連絡貰ったの飛雄ちゃんに。春ちゃんが具合悪くて帰ったけどどっかで倒れてそうです助けに行ってあげてください及川様って」
「え」
「あ、言っとくけど毎週月曜は休みなんだからね」
「……」
「飛雄から来たのは本当癪だけど。烏野で連絡先アイツしか知らないしね。連絡受けたのこれが初めてだったけど。みんな心配してるらしいよ」
「……」
「良い仲間に恵まれたね、春加」
「っう、ん」

頷き俯いた春加はペットボトルをぎゅっと強く握った。その拍子にベコッと音が鳴る。及川はよしよしと春加の頭を撫でた。

「大人しくて触るの許してくれる春ちゃんもいいけど、やっぱり元気な方がいいなー。俺も心配だし。今日じゃなかったら俺以外の奴が迎えに行ってたんじゃないかと思うとむかつくし」

ねー?と春加を見れば顔が赤くなっていた。え、と慌てる。熱が出たかとおでこを触る。だがやはり手では分からない。熱い気がするがそうでもないような。どちらかというとさっきまで顔色青かったのに。心配になる。

「ごめん、五月蝿くて辛くなっちゃった?」
「違う」

及川がおでこから手を放す。と、ぎゅっと袖を握られた。相変わらず俯いたままだがそっぽを向かれ横顔は見えるようになる。

「…?」
「な、名前で呼ばれたの…久しぶりで」

真っ赤な顔で言われる。目も顔も合わせてくれないが掴まれた袖。頭が追いつかない。やっぱり熱あるんじゃないの。だからこんな事言っちゃったとか…いや、言ったから体温上がったとか?
言われた言葉にざわめかないわけがない。これ現実?俺の夢オチとかじゃないよね?こんな可愛い春ちゃん見れるとか聞いてないおいしいっていうかこんな可愛い子一人にさせて大丈夫なの?絶対惚れちゃうよ。絶対惚れちゃう!

「春加、聞いて」
「っ、」
「今から青城に転校しよう」
「…は?」
「もう限界だよ。只でさえ学年も違うのに学校も違うんじゃ全然会えない!会いに行くのも周りを牽制するのも難しいよ!」
「はぁーーー」
「ちょっと!ため息禁止!」

さっきまでの照れてる顔はどこへやら険しい顔つきに変わる。地雷踏んだ、とあわてる。烏野で楽しく過ごしているのは分かってるし、簡単に転校なんて無理だってことも分かってる。けどそう思わずにはいられないのも事実だったり。もう少しあの時間を堪能してたかったと悔やんだ。

「及川さんがいる時点で青葉西城は私の中で候補に入ってない」
「…うん、言ってたね」
「あ……ごめんなさい、言い過ぎました。心配して来てくれたのに」
「いいよ。どうせ会いに行くつもりだったし」
「…もう大丈夫。帰る」
「そ?じゃ行こう」

先に歩き出す及川。送るよと申し出れば断られると分かっているのだろう。こういうところは流石だと思う。春加は後に続く。次第に及川の歩調がゆっくりになり隣に並んだ。
会話はなく、ただゆっくり歩く。薬が効いてきたのかもしれない。フラつきはしなかった。
及川と付き合うつもりはないのに、こうして甘えてしまっている。会いに来られたり撫でられたり、良くないって分かっているのになあ。マネージャーを引き受けた時は、会う機会があったとしても大会くらいだろうと思っていた。会うといってもそんなの見かける程度。試合が当たったとしても無視されるかもしれない。そんな風に思ってた。こんな風になるとは思ってなかった。なんとも呼びようのない関係である。
春加の家に着く。歩を止め、ようやく及川が口を開いた。

「薬が効いたのかな。顔色良くなったね。けど油断しちゃダメだよ。しっかり寝なさい」
「はい」
「良いお返事。じゃあね、春ちゃん」

鍵を開け、ドアを開く。手を振る及川に春加は少し微笑った。

「…今日はありがとう。徹」

目を見開いた及川が何か言わないうちにドアを閉め逃げた。溜息を吐く。
自分にも、十分問題がある。

駆け引きとか、そんなんじゃない
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