「おはよう、紫原くん」
「おはよ〜」
「今日はチーズ味だよ!朝練終わったら食べてね!」
「ほんと?俺チーズ好き」
「なら良かった」
「ありがとー名無しさんちん」

ぎゅ、と名無しさんに抱きつく紫原。身長差から名無しさんの顔は紫原の腕にすっぽりはまってしまっている。なんだ、焼いてやろうか。
そんな中隣にいた黒子がちょん、と裾を引っ張った。存在をあまり気付いてもらえない黒子がする癖。心配しなくても俺には見えているのに。そんな黒子は俺の裾を引っ張りながら呟いた。

「赤司くん、紫原くんを見る目が怖いです」
「…これは紫原を見ているんじゃない。彼氏を目の前に他の男に好き勝手やらせている名無しさんを咎めているんだ」
「お菓子を用意する仕事を任せたのは赤司くんでしょう」
「抱き合う仕事なんか頼んでいない。黒子だってあれは変な関係に見えるだろう」
「…猫と飼い主のように見えます」

どっちにしろ同じことだ。じっと見ていれば紫原と目が合う。すると彼はさっと名無しさんから離れた。自分はなにもしていないとでも言いた気に名無しさんを無視し水分補給に向かう。名無しさんはそんな紫原を不思議そうな顔をしながら見送り、他の仕事に移った。こっちには全く気づかなかった。



「おーい、この前の割引券まだあんだろ。よこ……」
「青峰。名無しさんなら手を洗いに行ったよ」
「……あっそう。つーかきちんとままごとしてんのな。わざわざクラスに出向いて一緒にお昼って」
「俺の弁当は名無しさんが持っている。取りに来るついでだ」
「持たせてるくせに。あいつの鞄の中身前に見たけど赤司の荷物ばっかだったぞ。教室まで会いにくる口実ってやつ?」
「名無しさんは全て置き勉だからな。少し鍛えてやってるだけだ」
「なんだそれ」

どかりと名無しさんの椅子に座り俺の弁当を見つめる青峰。狙っているのだろうか。

「青峰、弁当は?」
「さっき食った」
「早弁か」

「金ねえから割引券でパンでも買おうと思ったんだけど」と廊下の方を見回す。まだ名無しさんは帰ってきていない。そういえばいつも青峰は間食にパンを買ってある気がする。安上がりだからかもしれないが。

「…毎日パンじゃ栄養が偏る。もっとバランスを考えろ」
「うっせーよ。かあちゃんかお前は」
「良いものを買え。見てやるから、今日はここで食べろ」
「はあ!?嫌だねお前らに挟まれて三人でなんて居心地悪い!!」
「安心しろ。黒子も一緒だ。毎日三人てま食べている」
「テツ…(可哀相に)」



「名無しさんっちー!湿布ください!」
「ほれ」
「え、貼ってくれないんスか」
「ええー自分で貼りなよ」
「背中だから届かないんスよ」
「…」
「授業中ずっと違和感あったんスよ。お願い!」
「…しょうがないなあ。というか耐えてないで保健室行きなよ!」
「…へへ(簡単!名無しさんっち簡単!)」

部室にくるなりくっつき合っている黄瀬と名無しさん。はじめはそうでもなかったのにいつの間にか黄瀬が話しかけては名無しさんがそれに応えるのが日課になっている。 頼りにされることに喜ぶ名無しさん。きっと今、簡単だと思っているに違いない。ひねり潰すのも簡単だぞ、黄瀬。

「紫原」
「あい」

けしかけようとすれば「ダメですよ、赤司くん。紫原くん」と黒子が止めた。青峰と緑間以外来る気配がなく様子を見にきたのだろう。タオルを肩にかけ、ボールを持ったまま立っていた。

「なんで止めんのー」
「赤司くんの目がマジなので。一応黄瀬くんもチームですし…一応」
「一応って二回言っちゃってる」
「黒子、なら名無しさんを引き取って来い」
「…赤司くん行かないんですか」
「お前ならいい」
「……分かりました」

黒子はふたりに黄瀬の正面に近付き、ボールを高くかかげ、頭めがけて振り下ろした。

「黒子っちぐはっ!」
「わ、黒子くんどうしたの。ストレス?鬱憤溜まってた?それとも日頃の恨み?」
「名無しさんっちヒドッ」
「あんまり簡単だと思っちゃ駄目ですよ。簡単ですけど」

そう言って名無しさんを黄瀬から離す。一瞬目が合ったが変わらず無表情だった。けど上出来だ、黒子。
紫原に「行くぞ」と声をかけ体育館へ向かう。午後の練習の始まりだ。

「黒ちんオレのこと止めといて自分で攻撃してんじゃん。あれでいいの?黄瀬ちんの怪我増えただけじゃん」
「愉快だ」
「あ、そう…」
「紫原だって、朝のこと」
「は、早く練習しよー」



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