「でね、緑間くんったら…」

楽しそうな顔をして大好きなミドリマクンの話をする俺のクラスメイト。名無しさんちゃん。部活が始まるまでの少しの間、彼女が一目惚れしたという真ちゃんのことをいつの間にか毎日俺に話すことになっている。多分、その話を止めもせず聞き流していたのと俺が真ちゃんのことをよく知ってるから。今だって「ふーん」と彼女のミドリマクントークを聞き流している。
兎のでっかい人形を真ちゃんが無表情で持ってるところを見て一目惚れしたらしい。名無しさんはもの好きだ、と密かに思っている。けど、真ちゃんの近くにいれば分かる。それ以外は真面目で努力を惜しまない根っからの天才。ただでさえ綺麗な顔立ちだ。その部分を知れば惚れる子なんてたくさんいるだろう。第一印象が彼の持ち物のせいで敬遠されがちなのだ。そういう意味では名無しさんは良い目を持ってる。

「消しゴム忘れたら二つあるから、ってくれたの!」
「あー、見たそれ」

分かってるけど、面白くない。聞き流してるのも、あまり聞きたくないと感じるのに彼女の話に付き合ってる。下心込みだって気付いたのは一ヶ月くらい前。
完全な一方通行の矢印。けど知ってる。「練習に行くぞ」と俺と彼女のところにやって来る真ちゃんが俺を睨んでること。
名無しさんちゃんを見る顔が他の奴らと違うこと。
真ちゃんと名無しさんちゃんは両思いなのだ。お互い気付いていない。名無しさんちゃんが明らかにアタックしてるのにそれには全く気付かない真ちゃんがすごいけど。

もうすぐ今日のこの時間も終わり。そろそろ俺を睨んで、真ちゃんが来る。うーん、そろそろいいかな。一応名無しさんちゃんの気持ちを考慮して、真ちゃんが動くのを一ヶ月待ったけど進展ないし。
視野が広いと真ちゃんが教室の前に来るタイミングも分かる。それを意識して名無しさんちゃんの肩を掴む。
真ちゃんが来るから別の教室にわざわざ移動してたけど分かってる?真ちゃんが来るまでの間ずっとふたりきりだったの。うーん、結構抜けてるからな。分かってないだろうな。…あと3秒。2、1、

「おい、たか…」

声と同時に彼女を抱きしめる。ぎゅっと。彼の声も途中で消える。目を見開いた顔が浮かんで少し笑ってしまう。

「俺、名無しさんが好きなの気付いてた?」

抱きしめたまま彼女の耳元で話す。そろそろ展開進めないとね。
俺はもう動いた。
あとは、真ちゃんと名無しさんちゃんだよ。


誰かが進んでようやく世界は動くのです
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