「名無しさんっちのタイプってどんなんスか?」

放課後の体育館。使っているのは40人ばかりの生徒たち。ちなみに、バスケ部ではなくどこかのクラスとその担任である。見覚えがある人はいるが100人以上いる部員全員を覚えていないし誰かは分からない。
体育祭前のこの時期は放課後二時間ほど体育祭練習ということで体育館が使えない日々が続き、部室で暇を潰しているメンバーが数名。名無しさんも暇だったため黒子に着いて行き、空いてるベンチに座ると携帯をいじくり適当に過ごす。
よっぽど暇なのか黄瀬が声をかけてきた。

「はあ?」
「だからー好みのタイプ!参考までに聞きたいっス」
「好みねぇ」

考えてみるがよく分からない。この手の話題に関しては疎い名無しさんだ。好きな人はいないと思っているが周りからすれば赤司好きだろ!とツッコみたくなる。本人にその自覚なし。
更には「あたしの好きなタイプ言って黄瀬くんのなんの参考になるの?」と真顔で問う。

「いいんスよ。ちゃんと需要あるんで。暇潰し程度に考えててくれりゃ」
「そうねー」「おい、なぜ悩む」

資料に書き込みをしていた赤司がツッコむ。実は聞き耳をたてていたらしい。ペンを握った手は止まっている。他にも聞き耳をたてていたらしい黒子と青峰も寄ってきた。

「普通あんだろ。巨乳とかロングヘアーとかよ」
「それあたし目線じゃないじゃん!」
「背高いとか、スタイル良いとか、なんでも出来ちゃう人とか!」
「なにそれ。自慢?」
「えっ」
「なんでそこで赤くなんだよ」
「名無しさんさんがその三つで黄瀬くんのことだと言い当てたからですかね」
「この仕草が好き、とかは?」
「仕草…あっ黒子くんが微笑って頭撫でてくれたとききゅんとしたかも!」

ベキッ

赤司の手にあったはずのボールペンは小気味良い音を立ててへし折られた。まさかの名指しに黄瀬も面白くなかったがそれよりも心配のが勝った。「黒子っち逃げて!」と胸中で叫ぶ。
黒子本人もまさか自分に火の粉が飛ぶとは思ってなかったのだろう。顔色が悪くなった気がした。

「黒子」
「…なんですか、赤司くん」
「あ、でも黒子くんは親友だし。タイプってわけじゃないかな」

桃井のことを思ったのか付け足す名無しさんにほっと息をついた。
ありがとうございます名無しさんさん。あと数秒弁解が遅れていたら僕はバスケが出来なくなっていたかもしれません。

「あ、分かった。優しい人!」
「ありふれた答えだな。つまんねえ」
「けどそれって赤司っち…」
「おい、黄瀬!!」

言いかけた黄瀬を青峰が慌てて止める。ありふれた答えだけど、「絶対にそこには赤司は入らない!」三人の思いが一つになった。
名無しさんからしてみれば青峰もその中には含んでいないのだが、今はそれどころじゃない。

「あ、あと裏表がない人と」
「待て名無しさん!もうやめろ!」
「ふご!」
「これ以上言われたら僕たちが持ちません」
「??」
「(今の「なにが?」って顔ちょーかわいい!)」

青峰が慌てて名無しさんの口をおさえる。さっきのこともあってかげんなりした様子の黒子。一人ときめいてる黄瀬。分かっていない名無しさん。反応は様々である。
だがすぐにそれも終わる。赤司が資料を置き、ペンを置き、やって来たからだ。青峰はさっと名無しさんから手を離す。

「名無しさん、優しい人が好きなのか」
「まあ、誰でもそうでしょ?」
「裏表がない人がいいのか」
「うん」
「……ほう」

怒るかと思いきや腕を組み考えるポーズをする赤司。外野三人はいつこっちに話をふられるかと気が気ではない。
黄瀬は名無しさんにタイプを聞いた元凶であるため余計に。ていうか赤司っちそこで考え込むとか自分が裏表あるって認めてんスか!?

「ではこうしよう。俺が一日優しく、裏表がなく生活を送る。名無しさんはそれを見てどっちが本当に良いか決める」
「え?無理だよ征十郎が優しくて裏表なく生きるなんて」
「……」
「「「(なんて怖いもの知らずな…!)」」」

赤司のよく分からない提案を一刀両断する。つか、赤司っちの「優しく」って俺らにも有効?なら一日だけでも見てみたいと考えが浮かぶ。
しかしここまで怒らない赤司が不思議だった。「優しく」を意識してるのかもしれない。また考え込む赤司を見て名無しさんは笑った。

「でも、タイプと実際好きになる人違うって言うしね」
「確かに言いますね」

黒子がすかさずフォローを入れる。納得したのか赤司は「そういうものか」と顎に手を当てて言った。

「ちなみに征十郎のタイプは?」
「品のある女性だ」
「なるほどな」
「確かに言いますね」
「…今の納得の仕方納得いかないんだけど」

頷く黒子と青峰に名無しさんは白けた視線を送った。


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