「なまえ、仕事終わった?」
「…とっくですけど」
「ああ、そう。一緒に帰ろうかと思ったけど。分かった」

挨拶も無しに切られた通話にムカッとくる。こちとらあんたの誕生日だから午後から有給使って用意してたんですけど。
今年の春から征十郎も社会人になった。勤め先は誰でも耳にしたことあるような所で良く分からない偉そうな肩書きを既に貰ったらしい。
そのせいで新入社員とはいえすごく忙しいらしい。そういうとこ征十郎らしいけど。
ていうか今日征十郎の誕生日だって自覚してるよねあの子。いつもと変わらない感じだったけど。大丈夫か。
ちょっと心配になってくると電話のベルが鳴った。家の電話だ。慌てて電話に向かい、受話器を取る。
…見慣れない番号だ。

「もしもし」
「ああ、なまえ?いつも言ってるけど怪しい番号は出ない方がいいって言ってるよね。というかその童顔なんとかしたら?」
「……征十郎。なに、喧嘩売ってるの?」
「嫌だな、最近怒りっぽいよ」

受話器の向こうで笑ってるに違いない。もう、なんなんだこいつは。征十郎の方も伝わったのか「悪かったから機嫌直して」と謝ってきた。

「この番号懐かしいでしょ」
「…なにが?」
「十一年前」
「…もしかして、公衆電話?」
「当たり」
「へえー、まだあったんだ!」

確かに懐かしい。感嘆の声をあげると「感動するとこそこなんだ…」と呆れた声が返ってきた。

「…ていうか、一緒に帰ろうと思ったって嘘じゃん!なんでもうそんなとこにいるの」
「なまえが帰ってるか確認するために。まだだったら迎えに行こうかと思ってた」
「……ふーん」

声で私の機嫌が分かったのか笑う征十郎。ボックスの中で身じろいだのかガタッという音がした。ああ、確かにそんなこともあった。懐かしい。

「…で、なまえ。今日何の日か分かってるよね」
「征十郎の誕生日でしょ。ちゃんとご馳走作ってあるよ」
「そうじゃなくて。大学卒業したはじめての誕生日だろ」
「……そうだね」

征十郎が大学を卒業したら。
その答えを出すときだ。
私は電話の受話器を戻した。玄関に行って、靴を履き、家を飛び出す。

すぐに公衆電話から出てきた征十郎を見つける。私はそのまま彼に飛び込んで行った。

「うわ、と」
「結婚しよう、征十郎」
「…………嫌だ」
「…はあ!?」
「俺の計画を台無しにするプロポーズは受けない」
「…ちょっとなにそれ!」

征十郎から顔を剥がし睨むと彼は黒い上着のポケットから小さい箱を差し出した。あ、これ見覚えある。私が腕時計をあげたときの箱だ。

「開けて」

手に取り、言われるがまま開く。中身はプレゼントした腕時計ではなかった。それはそうだ。今その腕時計は彼の腕についている。

「…あ、これ!」

中に入っていたのは古ぼけた小さくハートがデザインされた指輪。でも見覚えがある。私が昔、征十郎が欲しいと言ってあげた指輪だ。

「こ、れ…ずっと持ってたの?」
「まさかプロポーズに使うとは思わなかったけどね」

だってあんなの本当に昔の頃の話だ。私はすっかり忘れてた。

「高校生の頃結婚届書いたら渡そうかと思ってたけど先送りにされたから、絶対こいつ泣かせてやろうって思って持ってた」
「……」
「こういうのになまえ、弱いでしょ?」

笑って言う征十郎に思わず涙が出てくる。こんなの反則だ。卑怯だ。そんな前からの計画なんて知らない。
なにも喋らない私を征十郎は腕を引っ張り抱きしめた。あの頃とは違い、抵抗しない。

「俺はなまえがずっと好きだよ。結婚しよう」
「……うん」

泣いてしまってなかなか上手く喋れない。代わりに私は征十郎をぎゅっと抱きしめ返した。

「…誕生日おめでとう、征十郎」

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