「…はい?」
「だから、早くこれを書け」

偉そうに命令する彼に慌てた。なにを言ってるんだこの子は。

今日は征十郎の十八歳の誕生日。家に呼び出され、朝早くから出かければ家には征十郎一人だけだった。
もう私の身長は抜かされて背伸びしたくらいじゃ追いつかない。私のが高かったことに征十郎はずっと根に持っていたらしく、この話題になるといつも満足そうに笑う。
特になにも思わず入って来たけど今日の征十郎は様子がおかしい。なんというか…そわそわしてる、みたいな。
促されるまま彼の部屋に入りテーブルの前に座れば反対側に征十郎が座る。そして後ろでごそごそしていると思ったらばしん、とテーブルに紙を叩くように置かれた。

「な、なに」
「結婚届だ。書け」
「…はい?」

そして、冒頭に至る。

「なまえが書いたら書くから、先に書け」
「ちょ、待ってなんで結婚届なんか」
「俺はずっとその気でいた」
「……」

そわそわしてたのってこれか。十八歳になったら。確かに結婚出来る年だ。けどまだ征十郎は高校生だ。大学にだって行く。つーか親の了承も得ないでなにやってんだか。

「征十郎、いい?まだあんたは高校生なんだよ」
「そんなこと言われなくても」
「冷静に考えて。早すぎる」
「俺たちが会ってから十二年だ。早くない」
「知り合ったときからはそうでも、付き合いはじめてからまだ早い」
「…」

むっとした顔。でも、はっきり言わないといけない。

「征十郎、私は今結婚する気はない」
「どうして」
「結婚が一番の幸せってわけじゃないでしょ。今も十分楽しくやってるし」
「…でも、」

淹れてくれたコーヒーを受け取りふーっと冷ましてから口に含む。寒い日にはあったかい飲み物だよねやっぱり。

「でも、あとちょっとでなまえ三十路に」

ガチャンッ

……おっと、いけないいけない。カップを置く力が入り過ぎた。征十郎がすかさず謝るくらいだからきっと今私は周りから見たら近寄りたくないオーラを出してるんだろう。
自分ではそんなに怒ってない気もするけど彼の顔を見るとそうでもないらしい。

「征十郎、それ他の女の人に言ったらとんでもないから気をつけな」
「わ、分かった」
「……別に私は三十前に結婚したいとか思ってないから」
「…」
「大学生になって、卒業してまだ私が好きだったら考えてあげるよ」

征十郎が十八歳になったらと考えてたことが結婚なら、私が考えてた事は大学卒業まで待つということだった。
征十郎と付き合うと決めたとき、多分これで彼と別れたら私はもうタイミングがない。けど、もし続いたら。彼が大学を卒業したら今度は私が征十郎を逃がしてやらない。そう決めた。
だからその前に結婚は駄目だ。

「…せっかく十八になったのに」
「計画してくれてたのは嬉しいけどね。私あんたのご両親に会わす顔ないや…保護者として任されたくせに結婚って」
「ああ、それはもう知ってるから別に気にしなくてもいい」
「え?」
「あれは…十二歳だっけ?なまえが家に来なくて代わりに親がいて。結局なまえの家まで行ったけど、あの時になまえのこと言ったから」
「言ったからって…そんな前から!?」
「……なまえが相手にしてなかっただけだからな」
「いやいや、それご両親も本気に思ってないでしょ。十二の時って」

まじかー、とテーブルに項垂れる。そんな前から十八歳で結婚とか考えてたわけ?そんでちゃんと十八になっても私を好きだったと。……うわあ、自分で考えて恥ずかしくなってきた。嬉しいけど!恥ずかしすぎる!

「なまえ、コーヒー冷める」
「んー…」

中々顔が上げられない。あ、そうだ。プレゼント渡さなきゃ。私は机に突っ伏したままポーンと彼に向かってプレゼントを投げた。今年は腕時計だ。

「誕生日おめでとう、征十郎」
「…それ、その体勢で言う?」
「んんー」
「っ、なまえ、顔上げて」
「やだ」
「上げろ」

抵抗するがぐっと力を入れられ目が合ってしまう。しかも顔近いし。

「……その顔が見れたからいいよ」
「…なにその顔。ムカつく」
「なまえの照れてるとこなんてそうそう見れないからね」

にやにやした征十郎をガシッと蹴っ飛ばしながら私は落ち着こうとコーヒーを口にした。

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