固まってしまった私を予想通りと言わんばかりに征十郎は落ち着いたまま携帯を上着のポケットにしまった。
靴を脱ぎ、一段上がる。同じ高さに立った私と征十郎はもう身長差なんてなかった。
急に腕を引っ張られ私は体勢を崩した。征十郎に寄りかかるように倒れ、引っ張ったもう片方の手で私を支えるように背中に手をまわす。

「ちょ、ちょっと待って!征十郎!」
「なんだ」
「なんだじゃない。なにすまし顔してんの。はなして」
「嫌だ」
「はなして」
「なまえの怒り方はいつまで経っても昔のままだ」
「…はなして」

ようやく征十郎から解放される。急な事が多すぎてどうしたらいいか分からない。俯いていると彼が動くのを感じた。けどそれは私に近付こうとしたのではなく、部屋に行こうとしただけらしい。

「暖炉のとこにいる。追い出すか決めてから来い」

私を見ず、扉を開け入っていく征十郎。私の家なのに自分の家みたいに入ってったなあいつ…
カレンダーを見る。そういえば、あの人の誕生日よりも征十郎の誕生日の方が私にとって大きいかもしれない。
長年祝ってるから。
クリスマスが近くて中々誕生日を祝ってもらえない征十郎が可哀想に思えたから。
考えてみれば理由は浮かぶけどこれだ、と当てはまるものがない。今までそんなの考えたこともなかった。…いや、考えようとしてなかった。
けど、考えなくちゃいけない。征十郎はきちんと言ってくれたんだからちゃんと答えないと。








「もしもし、ーーー…」





ガチャリ、大体が木製でできているドアはどうやっても開く音が響く。今の音で征十郎も気付いたはずだけど彼は暖炉の側でぼーっとしているだけ。
近くまで寄って納得する。ああ、そっか。彼のこの顔は何か喋って欲しいときにする顔だ。くすりと笑ってしまう。
小さい時から全然変わってない。こんなところがあるから変わらず子ども扱いしてしまうのだ。怒り方が変わらないというのも妥協してほしいところである。

私はあえて何も言わず彼の隣に腰掛けた。手を伸ばせば届くくらいの近さ。

「…」
「…」
「追い出さないの」
「勝手に家上がっといてよく言うよ、バカ」
「…」

上着も着たまま体育座りの征十郎。腕を伸ばして彼の頭を触る。そして乱暴に撫でた。
驚いた顔をして私を見る。
あんな偉そうにしておいて不安だったのか。面白い。さすが中学生。私が笑ってるのが分かると顔を少し赤くしてふい、と逸らした。

「…俺が言わなくても、なまえはその男と別れてたよ」
「……うん」
「一ヶ月後か半年後か一年後か嫌なところばかり見て、嫌になる。限界が来る」
「…うん。多分そうだった」

一度考えると、そうとしか思えなかった。私にあの人は子どもすぎた。原因はこいつだ。こいつが大人すぎるから。
だから別に怒ってもいない。不思議と悲しくも寂しくもない。

「…あんたがこれから高校生になって大学生になって、そしたら私はもう三十過ぎたおばさんだよ」
「自分で言って悲しくないの」
「五月蝿い!今のは征十郎のために言ってんでしょ!」
「だったら余計なお世話だ。十歳差なんだから当たり前だしそんなのとっくに分かってる」
「あ、あのねえ」
「それに言っただろ。年が離れてるから断るのは無しだって」
「う……」

確かにさっき電話で言われた言葉だ。シミュレーションしただけあって逃げ道を最初から削ってる。こういう事に関しては流石だ。慌てていると征十郎が満足そうな顔をした。

「まあ、今日はこれでいいよ。なまえは他の男じゃなくて俺を選んだってことだし」
「…征十郎、生意気」
「昔から知ってるだろう」

とことん生意気だ。顔を背けると今度は征十郎がくすりと笑った気がした。私も子どもっぽいんだろうか。いや、征十郎に言われたらすごい複雑だけど。もう言い返す気力もない。
だから床に下ろした手が握られたことも、今回は見逃してやろう。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -