「行けないってどういうこと」
「え、えっとね…」

征十郎の十五歳の誕生日。中学生も終えようとしている彼の誕生日を未だに祝えるのは嬉しい限り。けど今日は本当に急に用事が入ってしまったのだ。前に急用が出来て予定を変更させてもらったため断ることも中々出来ない。

「本当ごめん、征十郎」
「なまえ分かってる?誕生日は埋め合わせが出来ないんだよ」
「……うん」

電話越しに伝わるイライラ。彼を怒らせてるのは私だ。私も当日に呼び出しを食らうとは思わなかった。けど、やっぱり断ることは…

「毎年の俺との行事より彼氏を優先するんだ」
「っ、え」
「気付かないとでも思ったの?馬鹿なまえ」
「…ええ!」

いつ頃からバレてたんだろう。征十郎がなにも聞いてこないから知らないんだと思った。入社した会社の同僚。よく話しかけてくれて気さくな人だ。ちょっと怒りっぽいけど。でも、考えてみれば別にそれは征十郎の知ったことじゃなかったのかもしれない。だから言ってこなかった。けど、私が彼の誕生日をキャンセルしたから今初めて彼氏のことを言ってきた。

「なまえは彼氏を選ぶのか」
「だ、だって」
「俺の告白は一度も聞いてくれたことはないのに?今日とあと一回で十年目なのに?」

うわあ卑屈になってる卑屈になってる。征十郎がこんなに落ち込むとは思わなかった。私だって彼氏に征十郎のことは話したことがある。今日だってカレンダーに「征十郎バースデー」ってこのカレンダーが一月のページが付いてたころにもう書き込んでいた。絶対見てるはずなのだ。あの人だって。ちょっと怒りっぽいのは、あの人の嫉妬心からなのは分かってる。
………って、あれ?

「…告白?」
「…受け流されてることも分かってたけどね」
「…本当に?征十郎からかって」
「からかってないし、本気だと思われてないのは分かってたから言い続けてたら気付くんじゃないかと思ってた。けどやっぱりなまえは気付いてなかった」
「え、え、いつ?」

混乱する私に征十郎は怒った声で言う。

「だからずっと言い続けてただろ。それでもそんななまえが好きだって」
「え、あれって…そうなの」
「なまえからしてみれば初めて会ったときは俺は六歳でずっと子どもにしか見えてないかもしれない。けど、俺は年上の親切なお姉さんとして見てない」
「…」
「今までの告白が全部気付かれてなかったっていいよ。覚悟はしてた。でも本気。好きだよ、なまえ」
「な…んで、そんなぺらぺら告白できんの!」
「今までだって告白してたし。それにずっとシミュレーションはしてたよ」
「……!」
「こういうのになまえ、弱いでしょ?」

くすくすと受話器から聞こえる笑い声。私はいま十歳も年下の男の子に告白されてる。しかも彼氏持ちだと知られているのに。誕生日に告白ってすごいな、と思う。私だったらフられたら立ち直れないかもしれない。

「あ、歳が離れてるから断るのは無しだから。そんなのどうにもなんないし。あと十年目もすればそんなの関係なくなってくる」
「私、付き合ってる人がいるから」
「うん。そんな十歳も年下の男に嫉妬心剥き出しな男なんて止めておいた方がいいよ」

そこもバレてるのか。確かに急に予定を組まされたのは今日が征十郎の誕生日だからだと私にも分かってる。私もなんとなく思っていた。
気さくだけど、怒りっぽい。大人びた征十郎と何年も一緒にいる私にはあの人は子どもっぽすぎる。

「…ねえなまえ、他の男に嫉妬して違う予定入れるならさ。少し詰めが甘いと思わない?」
「え?」

聞き返した私の声と家のインターホンが鳴ったのはほぼ同時だった。え、うそ…
携帯を耳に当てたまま玄関のドアを開ける。そこには予想通り、彼がいた。
フードに白いファーのついた黒いコート。私と同じように携帯を耳に当て、白い息をはきながら微笑む。

「他の男がそれに気付いて先回りするかもしれないだろ」

電話と直接聞こえる彼の声が重なった。

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