彼の十二歳の誕生日。私は二十二歳。まだギリギリで大学生。就活は無事終わりほっとする時期。私は自分の家にいた。
彼の両親はやっと、この日だけは仕事から離れ彼と過ごそうと思ったらしい。十二年もかかったけど、良かったと思う。私があの子の家に行くことはもうないかもしれない。だって征十郎は十二歳。来年から中学生だ。留守番の付き添いなんていらない。私も、来年からは社会人になる。大切な日でも休めなくなる社会人になる。
ばちばちと暖炉で火の粉が跳ねる音がする。私は一番寒い窓際に座っていた。手を口にかぶせはーっと息をはく。
窓の外を見れば積もった雪で雪だるまを作ろうとしている子どもが見えた。昨日の朝から降り続いてだいぶ積もった。
そして今日も、雪が降っている。

「良かったね、征十郎」

誕生日に雪なんて羨ましいな。
いつも楽しそうにしてくれてたけど、本当は両親といたかったでしょう?今日はずっと一緒だ。
私からのプレゼントは郵便で送ろう。
そう思ったときだった。

ブルルルル、と携帯のバイブが振動する。そういえばマナーモードにしてたっけ。目で探せばちかちかと光ってるものを見つけた。マナーモードだからメールなのか電話なのか分からない。
手に取り画面を見ると電話だった。その番号は登録されてなくて、見たこともない番号。不審に思いながらも通話ボタンを押した。

「もしもし」
「ああ、良かった。繋がった」
「……征十郎?」
「そうだよ」
「な、なんで、どうしたの」
「だって、俺の誕生日はなまえが祝うんだろ」
「え、でも今年は征十郎の…」
「今年は祝えるから今までの分まで祝おうなんてそんな都合の良いようなこと言われてもね」
「…」
「俺の誕生日はなまえで過ごせればそれでいいんだ」
「なまえでってなによ」
「はは、」

受話器越しに笑い声が聞こえてくる。もう幼さを感じない声。ずいぶん背も追いつかれてきた。外見もだけど中身は元から大人びてる。将棋が好きだったり湯豆腐が好きだったり。そんな征十郎が好きだ。
けどやっぱり両親がいるなら両親と一緒に過ごすべきである。

「征十郎」
「却下」
「…まだなにも言ってないよ」
「なまえの言おうとすることなんか分かる。さっきも言ったが都合の良いことを言われても困るし、なまえと過ごせればいい」
「でもね」
「それに、」

言葉を遮られる。征十郎が身じろいだのか物音が聞こえた。そしてなんとなく、笑った気配。

「それに、もう来ちゃったんだよね」
「え?」
「なまえの家」

びっくりして立ち上がる。玄関に行こうとすれば絨毯に足を引っ掛けて転んだ。それでも慌てて起き上がる。

「征十郎!」

玄関に出れば征十郎が目の前にいたわけではなく、当たりを見渡せば近くの公衆電話のボックスの中で彼がいるのを見つけた。そうか、見慣れない番号は公衆電話だったんだ。
征十郎はなにやら笑っている。私が出て来たのに気付いて彼もボックスから出てきた。

「なまえ…ばたばたうるさすぎ。転んだだろ」
「なっ、うるさいな」
「はは、でもそんななまえだから好きだよ」

笑った顔が全然小学生に見えなくて焦る。本当大人びてるよなあ。…いい意味で。これは中学生になったらモテモテに違いない。

「ほんと征十郎は予想を裏切るなあ」
「…もう来ちゃったんだから追い返しても無駄だよ」
「……外寒いから暖炉であったまりなよ」

中へどうぞの言葉。征十郎は嬉しそうに入って行った。何回か来たことあるからどこかは分かってるはずだ。仕方ない。私だって毎年祝ってたから寂しかったのは本当だし。夜までに送れば大丈夫だろう。
とりあえず、郵便で送ろうとしてたプレゼントを引っ張り出さなくちゃ。
けどその前に転んでそのままだった皺々の絨毯を見られ征十郎に笑われたのは言うまでもない。

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