「ふぁー」
「あれ、月城!来てたんだ!」
「ん…ああ、音也。この時間大抵学校来てるの」
「へえ?授業終わったし林檎先生も暇だもんね」
「そうじゃなくて、夕飯食べに」
「…へ?」

別に作れないんじゃないんだよ。一人暮らしじゃモチベーション上がんないの、とお財布の中身を確認する伊澄。
周りからは「林檎先生、声が思いっきり女…」「あれ、林檎先生のいとこだろ?前に先生と話してるとこ見た」と伊澄について話題が上がっている。
無理もないが言われる本人は良い気分ではないだろう。音也はせめて周りの声を聞かせないようにと伊澄の手を引いて歩き出した。

「わっ、どうしたの?」
「そうだ月城!夕飯一緒に食べよう」
「…いいの?」
「もちろん。そのうちみんなも集まってくると思うよ」

ぱあっと輝かんばかりの笑顔を向けられる。この子はこのキャラで売れるな、と伊澄は持ち前のスターを見出す目で密かに思う。音也の他にもAクラスとSクラスに気になった人物は数人いるが。
だがそれは自分が介入出来ないことだと分かっている。口出しや手助けは禁止なのだ。
伊澄はそれを胸の内に留め「じゃあ、ありがたくご一緒させてもらうね」と礼を言った。

「優しいね、音也は」
「え?そうなのかな…ただみんなで食べた方が美味いと思って」
「それもだけど、気遣ってくれたでしょ?」

悪戯を思いついたような笑みを浮かべ上目遣いで音也を見る。話の的になるのは慣れてるしもう気にしなくなったが庇ってくれたんだとすぐに分かった。
音也は少し照れ臭そうに頬をぽりぽりとかいた。

「と、友達が困ってたら助けるのは当たり前だろ」
「……」
「…月城?俺なんか変なこと言った?」
「あ、ううん。違うの。友達って言ってくれて嬉しくて」

こんな容姿だから学校の友達でさえ林檎の従兄妹としか認識されていない。伊澄にとったらそれは友達と呼べるか怪しいものだった。だからといって林檎にそっくりなことが嫌な訳ではないし容姿を変えようとも思ったことはない。
音也は伊澄を気遣い庇おうとしてくれた。ここはそういう人も集まる学園なのだ、と認識させられる。アイドルを目指しているなら周りの門前払いのような意見なんて気にしちゃいけない。それをちゃんと分かっている。
高校入学前に親に早乙女学園を薦められたがこういう事を言いたかったのかもしれない。

「友達なら、月城じゃなくて伊澄って呼んでよね」
「え?」
「あたしだって音也って呼んでるんだし」
「…そうだね、伊澄」

ふわり、と彼は嬉しそうに微笑んだ。いつもにこにこ笑っている一十木音也。彼は大物になるという直感を沈める。ここで言ってしまったら終わりだ。育つものも育たない。
応援くらいならいいかな、と伊澄は今頑張っている友達にエールを送った。


キュートボーイ!
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