特に何があったわけでもない普通の学校生活を終えて伊澄は小腹が空いたと一人コンビニで唐揚げ棒を買った。焼き鳥のように串に唐揚げが刺さっているそれを一つ口に入れる。
栄えた通りでもない普通の住宅街。人通りも数人くらいで月宮林檎そっくりの格好で通っても特に騒がれることもない。伊澄は油断していた。口をもぐもぐさせながら歩いていると突然後ろから目を覆われた。

「ひぐっ」
「だーれだ!」
「……あ、音也くん、ですか」

悪戯が成功したと「へへ、当たりー」と笑う音也。手を外される。音也を目で確認すると一気に力が抜けた。マジでびびった。
なんとか気を落ち着かせると音也が私服なことに気が付く。今日も授業はあったはずなのに。不思議に思うがすぐに「ギターの修理終わったっていうから取りに行ったんだ」と言われ納得する。

「伊澄は学校帰り?」
「まあね」
「じゃあ一緒に帰ろう」
「ん、うん」

伊澄の場合早乙女学園には正確には「帰る」ではないのだが。でも確かに毎日のように訪問しているし、第二のホームと呼べるかもしれない。

「あ、私いつも着替えてから行ってるんだけど」
「……伊澄の家?」
「音也連れて行くのはなんかなー」
「ええ!なにそれ!」
「変なこと考えてるでしょ」

顔に出てる、と指させば慌てて口元をおさえる音也。まさか本当に考えてるとは…と伊澄は少し呆れる。
結局着替えなくても良いか、ということになりそのまま早乙女学園へ向かうことになった。音也が車道の方を歩き、その隣を伊澄が歩く。

「なんだかデートみたいだね」
「歩いてるだけだよ?」

ほぼ音也といる時は隣同士で歩いてる。だが音也は「外だから印象が違うの!」とムキになる。デートみたい、をやんわり否定した伊澄に少々機嫌を損ねたようだ。
頬を膨らませつーんとそっぽを向いて歩く音也に子どもみたいだ、と伊澄は密かに思う。音也がワンコだったらきっと今尻尾を垂らしているに違いない。
想像してみてちょっとおかしくなる。

「ほら、機嫌直してよ。一個あげるからさ」

持っていた唐揚げ棒を見せる。すると音也はちら、とこっちを見た。
歩きながら渡そうとすると音也は手を出さず代わりに「あ、」と口を開けた。伊澄は意味を理解すると「ええ!?」と固まる。
しかし止めようとしない音也に仕方なく伊澄は唐揚げ棒を食べさせる。一つ咥えると音也はにやりとした。

「ありがと!伊澄」
「〜っ、どーいたしまして!」

今度は伊澄がそっぽを向く。顔が赤い伊澄を見て音也は満足そうに「ほら、デートみたい」と笑った。


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