「伊澄!」
「お、おはよう音也」

もう夕方なのに。ぎくしゃくしている伊澄に音也は苦笑いする。変に避けられるよりはいつも通りに接しようとしてくれている方が良い。
こっちは伊澄のテストが終わったら言おうと決めていたけど伊澄からしてみればいきなりのことなのだ。驚かない方がおかしいだろう。

「あのさ、この間のことなんだけど」
「う、うん!もちろん誰にも言わないよ!」

そう言うと音也は目をぱちぱちとして「そっか」と笑った。あれ、そういうことじゃなかったのかなと伊澄は音也を見つめる。
彼は「でも」と呟くとそっと伊澄の顔に近付いた。耳元に音也の顔が当たりそうになり伊澄は固まる。

「…っ、」
「俺以外に伊澄のこと好きな人がいて、告白されたら俺のこと言って良いからね」
そう呟くとぱっと離れる。悪戯をした後のようにへへっ、と笑った。

「顔赤い」
「誰のせいだと思ってんの」
「俺だったら嬉しい」

ナチュラルにそんなことが言える音也は中々凄い。しかもいつも純粋無垢に。だから伊澄はなんとも言えなくなる。

「お腹空いた」
「もう食堂行く?」
「うん。お昼そんな食べなかったからすごい空いてる」
「そっか。じゃあ先行ってて。多分みんな食堂にいると思う」
「え、音也は?」

もうけっこうな夕食時だ。先に行ってて、ということはまだ食べてないんだろう。宿題でもあるのだろうか。

「ちょっと歌練して来ようと思って。今ならみんな食堂に集まってて思いっきり歌っても平気だろうし」
「あたしも行く」
「え?お腹空いたんじゃないの?」
「音也の歌聴けるなら全然平気」

にっこり笑うと今度は音也が赤くなる。伊澄も伊澄でストレートに言うことに自分では気付いてない。
「ああ、こういうとこが好きなんだな」と実感する。誤魔化すように頬をかいた。

「…じゃあ、一緒に行こう」
「うん!」
あ、ぎくしゃくなくなった。


リズミカルな心音
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