「おとやー!久しぶり」
「わっ、…伊澄!!」

どっきりをしかけようと角でスタンバイしていた伊澄。音也が歩いて来た瞬間飛び出した。
伊澄を見ると途端に音也はぱっと顔を輝かせる。

「そっか。テスト昨日終わったんだよね」
「そうそう。土曜は学校ないし早めに来ちゃった」

ここは寮制だから誰かしらいるだろうと、晴れて自由の身になった伊澄は早乙女学園に足を運んだ。

「それに音也が寂しがってるだろうと思ってね」

人差し指を立てからかうように言う。普通なら否定されそうな場面だが(翔だったら全力でされただろう)音也は「うん、寂しかった」としゅんと顔を曇らせた。
素直に言われた伊澄は返事に困る。男装の時もだったが音也をからかうと申し訳ない気持ちになる。

「俺、伊澄のこと好きみたいだ」
「そうなんだ………へ?」

軽く受け流したけど今なんかナチュラルにすごいこと言いませんでした?
音也を見つめる。未だにしゅんとしているが普通だ。すまし顔だ。いやこれはあれか、普通にお友達のしてのあれか。驚いた私が馬鹿だったよ。一人納得しようとする伊澄だが追い打ちを掛けるように次の音也の言葉に阻止された。

「伊澄が来ない間ずっと伊澄のこと考えてて。なんでか考えてああ、俺伊澄が好きなんだって」
「お、音也…あの」
「返事はいいから!」
「え?」
「返事は卒業式のとき聞かせて。それまで俺、頑張るからさ」

やっとにっこり笑った音也。学園が学園なため元から返事はいい、と決めてたのか伊澄の反応に嫌な予感がしたのか。これ以上何も言わせないというように「じゃあね!」と手を振って走りだす。
伊澄は突然の告白に頭がついていかずただ見送ることしか出来なかった。着けていたブレスレットがちゃり、と鳴る。

「音也は春歌が好きじゃないの…?」
音也がいなくなった廊下でぽつりと呟く。春歌と音也が二人で作った曲。あの曲について音也と話した時にそう思った。そして今もきっとそうなんだと。思っていたけど…
これからどんな顔して音也に会えばいいんだ、と伊澄は顔を赤くさせて頭を抱えた。

期限は、卒業式まで。


君しか目に入らないから、
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